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一度は競技引退も…結婚→出産→ラグビー転向を経て陸上・寺田明日香(34歳)はなぜ「全盛期の自分」を超えられた?「支えてくれる家族がいたので」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph by(L)本人提供、(R)JMPA
posted2024/11/22 11:03
23歳で陸上競技引退→結婚・出産からラグビー挑戦を経ての陸上復帰。なぜ寺田明日香は「かつての自分」を超えることができたのか
北海道から戻ってきた寺田から、復帰の意思を聞いた佐藤さんはこう問いかけたという。
「自信あるの?」
――「なかったら、やらないよ」
「その一言を聞いたときにゾクゾクっとして。彼女は本当に自信のあるときしか言葉に出さない性格ですから。ここまで言うならいけるんじゃないの?って思ったんですよね」
彼女の強い言葉は、結果として表れた。2019年6月、寺田は6年ぶりの日本選手権で3位になると、8月に19年ぶりに13秒00の日本タイ記録をマーク。そして9月、日本人女子初の13秒の壁を破る12秒97の日本新記録(当時)を出し、10年ぶりの世界選手権出場を決めた。
寺田は2021年6月、日本選手権で11年ぶりの優勝を飾り、東京五輪に出場。同種目で21年ぶりの準決勝進出を果たした。
女子アスリートは出産したら第一線で活躍するのは難しい――寺田は陸上第一期の記録を凌駕し、その言説を鮮やかに飛び越えたのだ。
なぜ復帰後「かつての全盛期」を超えられた?
一方、寺田のように出産を経て国内トップレベルに返り咲く選手はほとんどいないのも実情。彼女自身、前出の記事で語った「保活問題」をはじめ、女子選手が復帰する上での社会の仕組みやサポート体制の課題を感じているという。
「JISSの『産前産後プログラム』のような身体面の支援は少しずつ広がっていますが、子どもの預け先や金銭面などの課題は大きいですよね。親が近くに住んでいれば頼ることもできますが、そうではない選手はシッターさんをつけるしかない。でも、金銭的な負担は大きいですし、そこで悩む選手もいるだろうなと思います」
加えて、スプリント種目ならではの復帰の難しさも感じたという。
「短距離種目は100%の力を一瞬で出さなければならないのですが、産後の骨盤底筋群や体幹が緩んだ状態だとなかなか発揮できないんですよね。骨盤周りのトレーニングや尿漏れの改善、母乳をミルクに変えたり……なるべく早い段階で準備しなきゃいけないことが多いので、競技復帰にチャレンジしづらいのかなと感じました」