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仙台育英でも、青森山田でもなく…ホームラン「0」で東北制覇!? 高校野球“伏兵の7年ぶり東北大会優勝”に見る「飛ばないバット」時代の新潮流
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2024/11/11 17:41
7年ぶりの東北大会制覇を達成した福島・聖光学院。下馬評の高かった宮城・仙台育英や青森山田を破っての戴冠だった
1回に2点を先取され迎えた2回。1点を返し、なおもノーアウト一、三塁の場面、バントの構えを見せていた仁平大智が、ボール球と判断してバットを引く。そこにホームへ突入していた三塁ランナーの坂元壱が急旋回するが、相手キャッチャーがサードへ送球するや再度ターンして生還。同点劇を演じてみせた。
この見事な走塁について、試合後、「あれは作戦だったのか?」と報道陣から質問された斎藤は、「あれはミス」と苦笑いし、状況を説明した。
「本当はセーフティスクイズだったんだ。それを坂元が『スクイズだ』と勘違いした、ただのボーンヘッド。点が入ったのは、うちにとってラッキーとしか言いようがない」
とはいえ、坂元の好判断、切り返しの速さは瞬時にできるものではないはずだ。まさに一日の長と評価できる走塁だったのではないか? そう問うと、斎藤が頷く。
「『ランナーが挟まったときの判断力』っていう練習はやってはいるんだけど、試合で実際にそうなると怖気づいて足が止まっちゃうもんなんだよ。だから、ミスを帳消しにした坂元のターンは見事だった」
聖光学院は決勝戦も3-2で競り勝った。前評判が決して高いとは言えなかったチームが、優勝候補の仙台育英と青森山田を撃破できたのは、しぶとく、粘り強く1点をもぎ取る原点野球をまっとうしたからである。
強打の高校が「冬の時代」に…スモール野球が復権?
低反発バット元年。
大阪桐蔭が夏の甲子園で初めて完封負けを喫し、秋の近畿大会でも初戦で敗れ、6年連続でのセンバツ出場が絶望的となったことが話題となっている。甲子園で9度の優勝を誇るこの名門のみならず、これまで強打で鳴らしてきたチームが“冬の時代”を迎えかねない状況において、聖光学院のようなスモールベースボールを高次元で体現するチームがしばらくリードしていく可能性がある。
それはすなわち、相手チームからもマークされ、研究される、ということである。
斎藤は「そんなこと、わかってるって」と言わんばかりに矜持を打ち出す。
「ピッチャーのレベルが上がってきているとか、長打が減った原因はバットだけじゃないとは思うんだけど、そんなこと言ってもしょうがないかんね。うちには野球のバリエーション、引き出しがあるつもりだから」
東北を制した監督が、不敵に笑う。