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ドラフトウラ話《オリックス3位指名》「山口はもう1人いるから…」“193cmの無名ピッチャー”は指名の瞬間思わず「マジで?」…記者が完全密着「僕は指名されるかわからない選手」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byAsahi Shimbun
posted2024/11/19 17:00
オリックスに3位指名された山口廉王(仙台育英)と須江航監督。山口は193cmの超大型右腕
横では監督の須江航が何かを念じるように目を閉じていた。
オリックスの3位指名選手がアナウンスされたのは、その数十秒後だった。
山口が「山口……」と呼ばれた時点で早合点しなかったのには理由がある。ドラフト会議が始まる直前、パソコンで何かを確認していた須江は、ふいに「ドラフトを楽しむために言っておくと……」と会場に集まった野球部員らに話を始めた。
「あー、いた。山口という選手はもう1人いるから」
ネット上でプロ志望届提出者のリストを眺めているようだった。
「山本、山城、山下、山田……。『山』はいっぱいいるな。『山』の時点では、まだぜんぜん喜べないな」
須江はそう説明しながら、最終的には「廉王」と下の名前を読み上げられるまでは確定ではないことをそれとなく示唆していたのだ。
ドラフト会議を経てプロ入りする場合、学生は事前に志望届の提出が義務づけられている。しかし、社会人野球や独立リーグの選手はそういった手続きは必要ない。なので「山口」という候補選手は他にもいる可能性があり、よっぽど珍しい苗字でなければ上の名前だけで判断することはできないのだ。
山口は須江のアドバイスを忠実に守ったのである。
「僕は指名されるかどうかもわからない選手」
前日、山口にドラフト前夜の心境を尋ねると、こうリラックスしていたものだ。
「指名されるとわかっている人はドキドキすると思うんですけど、僕は指名されるかどうかもわからない選手なので。気楽と言えば気楽です。甲子園も出てないですし、未知数というか、獲ってもいいの? みたいな選手なんで」
ドラフト会議が始まる前、山口は報道陣や関係者にもこんなあいさつをしていた。
「順位的にはわからない部分が多くて、長くなるとは思いますが、気長に待ってくれれば助かります。よろしくお願いします」
指名があるとしたら早くても4位、通常なら5位か6位あたり。山口はそんな風にとらえていたようだ。
身長193cm「毎年7cm伸びた中学時代」
即戦力か将来性か――。ドラフト候補は、まずは大雑把にそのどちらかに分類される。近年は後者の中でもとりわけ大型選手の枠を「ロマン枠」と呼ぶ。
その意味でいくと、山口の体にはそのロマンや夢が詰まっていた。