草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
「弱かったけど、ずっと一緒に戦ってきた」残留オファーを断り中日退団のビシエド…盟友・柳裕也が初めて明かす「早朝6時の空港見送り秘話」
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byYuya Yanagi
posted2024/11/09 11:04
別れ際、ビシエド夫妻と写真におさまる柳
「まだ打てるのに辞めさせることはないだろう」
「功労者。球団はせめて他の選手のようにセレモニーくらいやってやれないのか」
どちらも多く聞かれたファンの意見だ。しかし、冷淡に思えてしまう退団公表に至るまでには、球団は来シーズンのオファーをし、「あなたが望むのなら、最終戦に出場しないか」とも打診したという。そのいずれも、ビシエドは断った。その理由が感情のもつれなら、サプライズで場内一周に加わり、立浪監督らと握手したりはしない。
名古屋を愛したビシエド
「俺はまだ現役でやりたい。だから来年はどこか違うチームでプレーしたいと考えている」
ビシエドはドラゴンズを愛している。名古屋の街にも溶け込んでいた。願わくば自分が「限界」を悟るシーズンまで、同じユニホームを着ていたかったことだろう。しかし、実力の世界では、往々にしてそうはならない。
オファーはあったとはいえ、チーム内でのビシエドの位置づけは急激に下がっていた。中田翔を獲得し、石川昂弥もいる。体制が代わっても、自分が第2、第3の一塁手として扱われることは容易に想像できるのだ。
オファーを飲めば、確実に来シーズンもプレーはできる。だが、ビシエドにとって「まだやれる」は、そこではない。どこからもオファーがないリスクは承知の上。まだ限界ではないことを証明する唯一の手段は退団であり、証明する場は他球団しかなかった。
見送った柳の思い
断腸の退団決意。そうした競技者としての思いと、9年も住んだ街を去る、人としての思いは別である。それはビシエドを見送った柳も同じだった。
「僕もニュースを見て退団を知ったんです。ファームで一緒でしたけど、普段はそんな話はしませんから。僕が一軍にいたら(セレモニーで会えて)行ってなかったかもしれませんが、とにかく最後にあいさつして終わりたかった。本当は前の晩に家に行ってやろうかとも考えていたんです。でもよく考えたらどこに住んでるか知らないや、って……」