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「高校時代のことはもう捨てています」5000m“異次元の高校記録”保持者の苦悩…伊勢路には姿ナシ「元スーパー高校生」順大・吉岡大翔(20歳)の現在地
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNanae Suzuki
posted2024/11/05 17:01
5000mで13分22秒という驚異的な高校記録を持つ順大2年の吉岡大翔。大学ではなかなかその潜在能力を発揮できずにいるが、その胸中は?
吉岡にとっても、今井の存在は大きいものになっている。今夏は走り込み期を終えると食欲がなくなり、体重が3kgほど減った。その影響なのか、ジョグをこなせても、ポイント練習の後半で失速するなど不振が続いた。そんな時、今井から声をかけられた。
「これをご飯にかけて混ぜるとおいしいから是非、食べてみて」
勧められたのは5種類ほどのふりかけ。ご飯にかけて食べると、食欲を取り戻し、体重も回復し、復調した矢先に迎えたのが今回の予選会だった。
吉岡は今井に感謝する。
「落ち込んだ時に声をかけてくださるのがありがたいですね。自分ひとりで戦っているんじゃないんだ、と。同じように悔しがってくださる。孤独感が薄れて、自分の心の面でも支えになってもらっています」
「過去にとらわれずにやりたいと思っています」
周囲から期待を向けられ、常に過去の栄光と比較されるのは早くにトップまで上りつめた者だけが味わう感情である。吉岡はきっぱりと言った。
「高校時代のことはもう捨てています。その時々で、人は目標が変わると思います。今の自分は今の自分ですし、過去にとらわれずにやりたいと思っています」
別れ際、これからのランナーとしての理想像について訊いてみた。
「5000mや1万mとか、オールラウンダーの選手を目指したいんです。将来的にはマラソンよりもトラックかなと思っています。スタミナを身につけて、長い距離を走ることができれば、短い距離でスピードを上げても持続できると思うんです」
今秋の箱根駅伝予選会では“負け戦”のなかでも意地が光った。いまは苦しみのなかにあっても、ランナーとしての器を大きく広げている段階だ。11月3日。全日本大学駅伝を走る伊勢路に茄子紺のユニフォームはなかった。順天堂大はこのレースの予選会に敗れ、牙を研ぎながら、新春の箱根路に向かう。吉岡が風を切るように疾駆した時、日本の陸上界には新たな希望の光が差し込む。