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「高校時代のことはもう捨てています」5000m“異次元の高校記録”保持者の苦悩…伊勢路には姿ナシ「元スーパー高校生」順大・吉岡大翔(20歳)の現在地
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNanae Suzuki
posted2024/11/05 17:01
5000mで13分22秒という驚異的な高校記録を持つ順大2年の吉岡大翔。大学ではなかなかその潜在能力を発揮できずにいるが、その胸中は?
吉岡は、その苦しい道中に抱いていたという罪悪感を明かす。
「前半、行き過ぎちゃったのかなと思って。自分の中でも焦ってしまいました。走っている時に『10位』とか『11位』とか声が聞こえて、自分のせいでこんな順位なんだなと思いながら走っていました」
自信を持ってスタートを迎えたはずだった。だが、一度狂った歯車は噛み合うことなく、21.0975kmを走りぬいた。全体で98位の1時間5分53秒でフィニッシュ。不振のなかでもチーム4位のタイムだった。
順天堂大は15km時点で、出場圏外の12位まで落ち込んだが、終盤に盛り返して14年連続66回目の出場を決めた。吉岡の失速は苦戦の“元凶”のようにも映るが、それは違う。吉岡自身は「中間地点の前からキツくて、『まだ10kmあるのか』という感覚でした」と明かすほどの不調だったが、そんな時こそ心を試される。目いっぱい走っているペースを落とせば、体も呼吸も苦しさから解放されるからだ。そんな状況でも持てる力を振り絞り、思うに任せない足を前へと進めていった。
そのことはレース後の受け答えで見せた態度からも明らかだった。1秒差で出場権を得られたことについて訊かれると涙ぐみながらも、きっぱりと言った。
「本当に自分自身、最後まで諦めずに走れてよかった。自分以外の他の選手、監督をはじめ、応援してくださる方々のおかげで摑んだ1秒だと思っています。本来なら、自分が1分も2分も稼がないといけない。でも、順大の11番手に抜かれるまでは、自分のタイムが結果に繋がるんだから、とりあえず粘ろうと思って。そこで諦めていたら、この1秒はなかったので」
そう言うと、冗談めかして笑った。
「自分に感謝かなと」
5000mで「異次元の高校記録」…超高校生ランナーだった吉岡
吉岡は将来を嘱望される日本陸上界の気鋭のランナーである。
衝撃の走りを披露したのは長野・佐久長聖高3年時だ。22年11月、日体大記録会5000mで外国人勢を向こうに回してレース終盤、トップに立つ快走をみせた。13分22秒99をマークし、佐藤圭汰(京都・洛南高、現駒澤大)が持つ記録を8秒以上も更新する高校生新記録を樹立した。