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「高校時代のことはもう捨てています」5000m“異次元の高校記録”保持者の苦悩…伊勢路には姿ナシ「元スーパー高校生」順大・吉岡大翔(20歳)の現在地
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNanae Suzuki
posted2024/11/05 17:01
5000mで13分22秒という驚異的な高校記録を持つ順大2年の吉岡大翔。大学ではなかなかその潜在能力を発揮できずにいるが、その胸中は?
その後も好結果を出し、順天堂大に進学。ルーキーだった昨年、9月の日本インカレ5000mでも日本人トップの14分00秒43で走り、存在感を示した。
だが、ロードレースのシーズンに入ると長い距離への対応に苦慮し、3大駅伝の結果からも試行錯誤の跡が窺える。
◆出雲駅伝 1区11位
◆全日本大学駅伝 3区14位
◆箱根駅伝 4区8位
吉岡自身も「去年は全然、走れていませんでした」と明かす。この1年で練習量が格段に上がった。駅伝シーズンに備えた走り込み時期の今年8月、月間走行距離は約950kmだった。昨年の同時期に比べて200kmほど増え、距離に対する不安も解消されつつある。
「試合ではなかなかうまくいかないのですが、練習自体はできていると思います」
吉岡はこれまでトラックレースで実績を残してきたが、順天堂大ではトラックに特化せず、ロードレースにも積極的に出場している。長門監督は長距離への適性も見いだしており、その強化方針は明確だ。
「高校時代に5000mで日本高校記録をつくった。あのタイムは凄い。ただ、あれを追うのではなく、大学では1万mやハーフマラソン、箱根駅伝で結果を出してほしい。じっくり距離を踏んでいく、練習量のボリュームを増やすことは、彼には今までありませんでした。長い目で見た時に必ずトップクラスになる選手だと思いますし、将来的にはトラックで勝負したいのは間違いないですが、今はその幅を広げているところです」
「元祖・山の神」が吉岡に思うこと
今年4月には同校OBの今井正人がコーチに就任した。箱根駅伝5区で3年連続区間賞に輝いて「元祖・山の神」の異名をとり、07年に同期の長門監督とともに優勝を果たした名ランナーだ。トヨタ自動車九州時代にはマラソンを2時間7分39秒で走った今井は、吉岡の現状をこう見ている。
「彼は世界で戦える能力があり、そういう存在だと思っています。それを引き出せてあげられていないのは、私たちもいろいろと考えないといけない。彼が一番苦しんでいると思います。
ただ、彼自身、とんとん拍子で上がっていくのもいいのですが、この先の伸び率を考えれば、この苦しみがあるからこそ、走れた時の喜びを感じられる。そういうことを知って強くなる方が、選手としても人間としても厚みが出ると思います」