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「高校時代のことはもう捨てています」5000m“異次元の高校記録”保持者の苦悩…伊勢路には姿ナシ「元スーパー高校生」順大・吉岡大翔(20歳)の現在地
posted2024/11/05 17:01
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
Nanae Suzuki
遠くまで飛ぶためには、より長く助走をとったほうがいい。
かつて「スーパー高校生」と騒がれたトップランナーの走りに触れて、思わずMr.Childrenのメロディーが脳裏をよぎった。10月中旬、夏を思わせるような東京・立川で箱根駅伝予選会を走った順天堂大の吉岡大翔(2年)は今まさに、そんな「助走期間」にいるようだ。
わすか1秒差で…分かれた明暗
2025年1月2、3日の箱根駅伝出場権を巡るボーダーラインに立つ2校の命運を分けたのは、わずか1秒だった。笑ったのは順天堂大。泣いたのは東京農大。純粋なタイム差では予選会史上最小差での決着となった。出場圏内の10位に滑り込み、長門俊介監督は目を真っ赤に腫らしながら、記者たちの質問に答えていた。
ふと隣にある白いテントのなかが視界に入った。出場を決めた伝統校のランナーたちがホッとした表情を浮かべるなか、目頭を押さえて顔をしわくちゃにしている小柄な選手がいた。吉岡である。指揮官の話に耳を傾けていると、この日の吉岡の走りに関する質問が出た。
長門監督は苦笑混じりにこう答えた。
「状態がすごくよくて、いい練習をできていた。今回は本人もしっかり戦えそうだと手応えを感じていたので、それでフリーで行かせましたけど……手応えはあったんですけど、それを今日は出せなかったですね」
吉岡は、ハーフマラソンの上位10人の合計タイムで競う予選会を突破するためのキーマンだった。エントリー時の1万m資格記録28分46秒96はチーム3位。エースで4年の浅井皓貴とともにフリーで走らせることで日本人の先頭集団で競わせ、合計タイムの「貯金」を作る作戦である。中団に3人、そして残り7人が5km毎を15分15~20秒のペースにタイム設定した集団走で手堅くまとめる。順天堂大はそんなレースプランで戦う算段だった。
だが、吉岡のピッチが上がらない。スタート時に23.2度だった気温は強い日差しのなかでみるみる上昇。25度の夏日となる異例の暑さのなかで、5km通過時点で並走していた浅井に後れを取り、7km地点から後退していった。汗を大量にかき、腕の振りにも普段の鋭さがない。10kmから15kmは16分12秒も要してしまった。