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陸上女子トラック「最古の日本記録」はなぜ16年も破られない?…400mで“歴代10傑独占”「ロングスプリント界の至宝」千葉麻美とは何者だったのか
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byAFLO
posted2024/11/07 11:00
陸上女子400mでいまも残る日本記録保持者の千葉麻美。日本歴代記録の上位10傑を独占する、不世出のロングスプリンターはいかにして生まれたのか
記録がぐんぐん伸びたこともあり、千葉は400mという種目にどんどんのめり込んでいった。
当時は、女子400mの日本記録が52秒95、高校記録が53秒45で、いずれも柿沼和恵(埼玉栄高→中大→ミズノ)が持っていた。柿沼が1992年にマークした高校記録は当時、10年以上破られずにいたことになる。
「高1の時は高校記録が全く見えていなかったのですが、高2のインターハイで運良く2番になって。その時に『もうちょっと頑張れば高校記録も狙えるかな』と思うようになりました。でも、更新できるとは思っていなかったので、当時ずば抜けて速かった高校記録に何とか近づきたいと思っていました。その上の日本記録はまた次元が違ったので、ゆくゆく自分が大人になって、社会人になる頃に出せたらいいな……ぐらいに考えていました」
千葉は、高校記録を視野に入れるまで力を付けていた。しかし、ここでぶつかった53秒台の壁が高かった。高校最後のインターハイでは、200mと400mの二冠を果たしたものの、400mの記録は54秒台にとどまっている。
名伯楽が千葉に授けた「400mの走り方」は…
そんな千葉に助け舟を送ったのが、後に師となる福島大学の故・川本和久監督だった。
高校最後の国体に出場した際に、福島県のスタッフだった川本監督に「どうしても53秒台で走りたいんです」と話すと、こんなアドバイスを送ってくれた。
「400mはガンといって、スーッといって、ピューって帰ってくればいいんだよ」
擬音語だらけのアドバイスに、初めは「何を言っているんだろう」とハテナマークが浮かんだ。だが、不思議なことに、その一言で400mのレースの組み立て方がイメージできたという。
「それまでレースパターンをあんまり考えたことがなくて、『前半をちょっと抑えて入って、余力を残した分、後半に頑張る』というレースをしていました。
それまで『最初から“ガン”っていく』という発想はありませんでしたが、川本先生にそう言われて、『じゃあそれで1回走ってみよう』と思って試してみたんです。そうしたら初めて53秒台で走ることができました。『この先生、すごいな』と思いましたね」