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紛糾した“誤審騒動”に「一本を取るしかない」…柔道81キロ級金・永瀬貴規(31歳)はなぜパリで圧勝できた?「会場は当日まで行きませんでした」
posted2024/10/20 11:00
text by
小松成美Narumi Komatsu
photograph by
Nanae Suzuki
完全アウェイのシャン・ド・マルス・アリーナ。畳上で約3.64m(2間)の距離を置き対戦相手と向かい合った永瀬貴規(31歳)は、澄んだ心で主審の声を待っていた。「はじめ」の声を聞けば、その瞬間から作り上げた体が動く。「受け身」を否定し、一途に攻めるのだ。
灼熱のパリにいたあの日を振り返った永瀬貴規は、澱みのない声で言った。
「金メダルを日本に持ち帰る。そのためだけに挑んだ大会です。自分の柔道に集中し、一本で勝つことを目指したパリオリンピック。イメージ通りの柔道ができた、と真に思えた瞬間に自分は勝者になっていました」
2024年7月26日から8月11日までの17日間、フランス・パリで開催された第33回オリンピック競技大会。その中でも柔道は、熱狂の中心にあった。日本発祥の武道であり、言わば日本のお家芸である柔道は、開催国のフランスでも人気を誇り、競技人口は約53万人で日本の約12万人の4倍を超えている。これは、サッカーやテニス、乗馬に次ぐ規模だ。フランスの人口が約6800万人であることを考えれば、競技者数が日本の4倍というのは驚くべき数字である。
フランス代表をはじめ、強豪が集うパリオリンピックで、アウェイでの戦いに挑んだ日本柔道の選手たちだが、3つの金メダルを含む8個のメダルを獲得した。中でも男子81キロ級で金メダルを獲得した永瀬は、圧倒的な強さを見せつけている。
81キロ級では初となる「オリンピック連覇」の快挙
この階級では初となるオリンピック2連覇を達成し、その静謐な表情と鋭い投げ技で強靭な柔道を表現した永瀬。表彰時の彼は、全ての柔道選手とファンたちの憧憬の的となった。
2016年のリオデジャネイロオリンピックで銅メダル、2020(2021)年の東京オリンピックで金メダルを獲得し、世界選手権やグランドスラムなど、さまざまな世界大会でも優勝を経験している永瀬は、金メダル2連覇という重圧を思考の外においていた。
「柔道はフランスでも人気スポーツですから、目の肥えた観客が多い。良い柔道を見せ、一本で勝ったら、自国の選手でなくても盛大な拍手や歓声を送ります。実際、私にも拍手や応援の声をいただけたので、いい雰囲気だなと感じながら試合ができました。とても戦いやすかったです」