オリンピックPRESSBACK NUMBER
パリ五輪柔道“あの”疑惑のルーレットを金メダリスト・永瀬貴規(31歳)は現場でどう感じた?「フランスに流れがあったのは間違いない。でも…」
posted2024/10/20 11:01
text by
小松成美Narumi Komatsu
photograph by
Nanae Suzuki
負けた試合を糧として、勝利のために必要な動きと技を考え、稽古で最善を尽くす。和紙を一枚一枚積み重ねるような研鑽の蓄積が、リオ・東京・パリの3大会連続のメダルという快挙を実現させた。
心がけたのは「柔道の基本に立ち戻る」こと
パリオリンピック柔道男子81キロ級の準決勝、決勝を待つ永瀬貴規(31歳)に恐怖や気負いは皆無だった。
「繰り返した稽古の成果を一つ一つ確認することができました。稽古した組み手や動き、その技を、畳の上で再現できることが楽しいとすら感じられたことを覚えています」
金メダルのために心がけたことはとてもシンプルなことだ。
「一試合毎、柔道の基本に立ち戻る、ということです。それには、自分の組み手を作ること。相手より有利な組み手になろうと鋭く攻防することで、プレッシャーを与えることにもなりますから」
柔道の基本は、右手で襟を握る「釣り手」と左手で袖を持つ「引き手」だ。道着の襟と袖、2点をしっかり掴み、前へ出て技をかけていくというこの基本を、永瀬は徹底追求した。
「この姿勢さえ貫けば、今日は負けることはない、という自信もありました」
準決勝は、世界13位のイタリアのアントニオ・エスポジト(29歳)。近年は国際大会でコンスタントに上位に入るこの選手は、永瀬にとって初対戦の相手だった。
「準決勝までには3時間ほどの空き時間があります。そこで念入りにエスポジト選手の戦術分析を行いました。試合の勝ち上がり映像を見ると、彼は先にしかけてくるタイプでした。相手のペースに持ち込まれないためには、先手をとって動きを封じることが必要でした」
永瀬はその言葉通り攻めた。開始1分すぎに支え釣り込み足で技ありを奪い、その後、寝技で抑え込んで2つめの技ありを取る。合わせ技一本での勝利、時間はわずか2分半だった。
パリ現地時間30日の午後、日本時間では31日の深夜、決勝の舞台は整った。対戦相手はジョージアのタト・グリガラシビリ(24歳)。ジョージアの柔道はレスリングなどの格闘技の要素が溶け込んでおり、日本人選手を苦しめている。