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ヤクルト青木宣親が、じつは尾崎世界観に明かしていた“引退のこと”「青木さんが引退するとき、一体自分はどうなってしまうのだろう…」
text by
青木宣親×尾崎世界観Norichika Aaoki & Sekaikan Ozaki
photograph byMiki Fukano
posted2024/10/01 11:13
今季限りでの現役引退を発表した青木宣親。著書『青木世界観』の中で、親交の深いミュージシャン尾崎世界観に“引退”について明かしていた
監督にも怒られまくってプレッシャーも感じるし、野球が嫌になったりもしました。でもプロに入るという目標に到達するために何をすればいいか、とか自分と向き合う日々でした。そこを乗り越えてからは、野球を辞めたいと思ったことはないですね。色々と苦しい思いをしても、何か達成した時には全てが吹っ飛んで野球って楽しいなあと思ってしまうんです。
「嬉しいな」と感じる瞬間
単純に勝った時もそうだし、試合の流れを引き寄せるようなプレーをした時は一番嬉しい。ダイビングキャッチをしてお客さんが喜んでくれたり、ここが勝負どころというところでいいヒットが出たり。最近のことで言えば、負ければシーズン最下位が決まるという去年の最終戦で、1点ビハインドの9回に代打で出てセンター前ヒットを打ったんです。そこからチャンスが広がって、内山(壮真)が同点タイムリー。最後は山田の犠牲フライでサヨナラ勝ちした。
負ければ最下位で、どうしても勝って5位で終わりたいという試合。1点差だし、何が何でも出塁しなければいけない場面でした。ここで自分が凡退したら絶対にダメというところで集中力を研ぎ澄ませたし、ヒットにできたのは良かったです。もちろん本来は最下位争いなんてしていてはダメなんですけどね。でもああいうところで 粘って1勝を拾えるというのは、次の年の戦いに向けても絶対に大事なことだと思っていましたから。そういう大事な場面でいいプレーができた時は、野球をやっていて嬉しいなと感じる瞬間です。
アメリカに行ったのは本当に大きかった
アメリカに行って、メジャーで初めて打席に立った時や、初めてヒットを打った時というのももちろん嬉しかったです。1年目で満身創痍のなかで30盗塁できた時も、 ロイヤルズでワールドシリーズの舞台に立った時も誇らしい思いでした。でもそれ以外にも、普通の場面で楽しい瞬間というのが結構あってね。今思い出したのは、確か2015年のサンフランシスコ・ジャイアンツ時代だったと思うんですけど、シカゴ・カブス戦でライトを守っていた時のことなんです。
後ろにはカブスファンがいて、十数人が声を揃えて日本語で「ミギ、ヒダリ、ミギ」とか言っているんですよ。なんだろうな、と思っていたら、どうやら僕が右足を 動かしたら「ミギ」、左足を動かしたら「ヒダリ」って叫んでいるみたいだった。あ、 俺のことか、って思って。わざとそこから足を右左右右とか凄い速さで動かしたら、 その人たちがめっちゃ笑ってた。ヤジられたり汚い言葉を飛ばされる時もあるけれど、 これは本当に認められている証拠なんだなっていうのは感じていました。
アメリカに行ったのは僕にとって本当に大きかったです。日本で凄くきっちりした野球をやってきて、アメリカでベースボールに出会った。そこで本当の意味で野球の楽しさが分かったんです。その感覚を持ったまま野球に戻ってきたので、また違う感じで日本の野球に取り組めている。環境を変えるタイミングも本当に良かったと思います。もう一回、野球に出会った、という感覚でした。だから今は、本当に野球が楽しい。やっぱり野球が好きだと日々感じています。
<続く>