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「どの選手にもフェアな監督」香川、南野、遠藤を愛した名将クロップのリーダー論「私は本当に普通の人間」「世界最高になろうとは思わない」
posted2024/09/15 11:04
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
世界最高峰の指導者として評価されている元リバプール監督のユルゲン・クロップからコミュニケーションの取り方やチーム作りのあり方という《リーダー論》について学べることは非常に多い。
クロップとは何者か。日本のサッカーファンにとっては、世界的にまだ無名だった香川真司(ドルトムント)、南野拓実、そして遠藤航(ともにリバプール)という日本代表選手を見出した監督として知られているかもしれない。
遠藤への本気の信頼
選手への信頼をとても大事にする監督だ。世間から少なからず懐疑的な見方をされた獲得劇に対しても、クロップは微動だにせず自信たっぷりに選手それぞれのすばらしさを口にしていたものだ。シュツットガルトから遠藤をリバプールに獲得した時もそうだった。世界最高峰とされるイングランドのプレミアリーグで優勝争いをする名門クラブには各国のスター選手がずらりと並ぶ。そして遠藤はそこに名を連ねるべき選手なのだということを獲得時からクロップは強調していた。
「彼は本当にいい選手だ。経験があり、シュツットガルトと日本代表でキャプテンを務め、流ちょうに英語を話す。親切な青年で、家族の父親で、ピッチ上では鬼神のごとくプレーをし、センセーショナルな心構えを身につけている。獲得できて本当に幸せだ」
メディアの前で流ちょうに褒めるだけで普段の接し方や起用法は寒々しいなんて指導者もいるだろうが、クロップは違う。主力選手だけではなく、どんな選手をも大事にするし、チームの中で居場所を作る。リバプールでクロップのもとでプレーした後、フランスリーグのモナコへ移籍した南野が、フランス紙『レキップ』のインタビューでクロップについてこんなふうに話していたことがある。
南野への大きな影響
「いつでもどの選手とも話をしてくれました。普段試合に出ていない選手とも常にコミュニケーションをとってくれたんです。リスペクトされていることを感じたし、どの選手にとってもフェアな監督なんだという印象を受けました。控え選手であっても、そのモチベーションをいつも高く保つようにマネージメントしてました」
リバプール時代の南野は数多くの出場機会に恵まれたわけではない。それでも出場すれば、チームを助けるプレーの数々でクロップを喜ばせたものだ。いままた南野がモナコや日本代表で素晴らしいパフォーマンスを発揮している背景に、クロップの存在は小さくないはずだ。言葉の一つ一つに愛があり、熱があり、ユーモアがあり、メッセージがある。だからその言葉を聞きたくて、みんながクロップと話したがる。
そこには確かに天性の資質がある。33歳の選手だったクロップを、マインツの暫定監督として登用することを決断したクリスティアン・ハイデルSDが当時こう評していたのが印象深い。