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「どの選手にもフェアな監督」香川、南野、遠藤を愛した名将クロップのリーダー論「私は本当に普通の人間」「世界最高になろうとは思わない」
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2024/09/15 11:04
9月にドルトムントのレジェンドマッチに登場したクロップ。今も愛されていることがよくわかる
私は本当に普通の人間だ
「リバプールでの最初の記者会見でこういった。『私は普通の人間だ』、と。これが全てを表していると思う。私は本当に普通の人間だし、それが最初にくるポイントだ。そして私は人が好きだ。これが二つ目のポイント。新しいクラブに来たら、まず人々のもとへ足を運んでオープンに話をするんだ。彼らが私にがっかりするまでね(笑)。もちろんがっかりさせるつもりでみんなのところに足を運んだりはしない」
リバプールでの最初の時期にこんなことがあったという。スタッフ一同が、果たして自分達はここに残って仕事ができるのかを心配していた。監督交代とともにスタッフの人員が一気に変わったり、あるはずだった部署が廃止になったりということはプロの世界ではよく起こる。その様子を感じ取ったクロップはすぐにみんなを集めると、「ここにいるスタッフは誰も解任されたりはしない」と、ストレートに伝えたそうだ。
「うまくいかないことは自分達で改善できるからね。みんなが同じ目的をもって、一緒に成功しようという思いを持っていることはわかっていたから。私にはそうしたスタッフとの関係性をうまく築くことができるし、自分の周りのスタッフにそれぞれの仕事を任せることができる。そしてそのなかで責任を担うことができる。
最後の決断をするのは私だし、歩むべき道をまず自分が歩いてみせなければならないけど、そうしたスタッフ全体の雰囲気をよくするのが自分の役割の一つだと思っている。みんなが私と同じようにやる気があって、エネルギーのあるチームが欲しいんだ」
香川に救いの手を
同じ思いを抱き、同じ目標を達成するために全力で取り組む人間をクロップは決して見捨てたりしない。たとえ調子が悪くて思うようなプレーができない時期があっても、必ずその背中を支えてくれる。だから選手たちはみんな思いっきりチャレンジができる。
香川もそんなクロップに何度も救われた選手だ。センセーショナルな活躍を見せたドルトムントから一度イングランドの名門クラブであるマンチェスター・ユナイテッドに移籍したものの、苦難の時期が続いていた。その後ドルトムントへの復帰が決まっても、「もうあの頃の香川には戻れない」という声の方が多かった。それでもかつて「トップ下として世界で5本の指に入る選手」と最大限の評価をしていた香川を、クロップはなんと温かく迎え入れたことか。
当時同僚だったネヴェン・スボティッチの言葉が本質をついている。