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計量失格インド人レスラーの悲劇「8歳時に父が射殺され…」「レスリング連盟のセクハラ告発」須崎優衣に勝った“幻のメダリスト”知られざる壮絶人生

posted2024/08/25 17:03

 
計量失格インド人レスラーの悲劇「8歳時に父が射殺され…」「レスリング連盟のセクハラ告発」須崎優衣に勝った“幻のメダリスト”知られざる壮絶人生<Number Web> photograph by Getty Images

パリ五輪レスリング女子50kg級で決勝に進みながらも、計量で失格となったビネシュ・フォガト。五輪後、首都デリーの空港で熱烈な歓迎を受けた

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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 計量失格。選手にとって、それは死刑宣告に等しい。目の前に迫っていた闘いの舞台に上がる権利を剥奪される。これほど辛く、屈辱的なことはない。

 わずかな体重超過でも、「それくらいなら……」というアバウトな裁定は許されない。階級制スポーツには「互いの体重を合わせなければならない」という厳しい掟がある。

須崎優衣から大金星も「私の夢は砕け散った」

 大きな試合になればなるほど、計量失格の注目度は高まる。4年に一度のスポーツの祭典ともなれば、なおさらそうだ。パリ五輪ではレスリングで計量失格が起きた。舞台は、金メダルのかかった決勝戦。レスリング競技の開催2日目となる8月6日、女子フリースタイル50kg級決勝に駒を進めていたビネシュ・フォガト(インド)は当日の計量をクリアできなかった。

 前日に行なわれた1回戦。五輪2連覇を狙う優勝候補筆頭の須崎優衣(キッツ)から試合終了間際に逆転勝ちを収めたことで、一躍クローズアップされる存在になっていた。オーバーしたのはわずか100g。「そのくらいどうにかして落ちなかったのか」と勘繰る向きもあるだろう。案の定、ビネシュは髪の毛を切ってまで体重を落とそうとした。しかし、もともとショートヘアだったので、オーバー分を補うものではなかった。

 一説には血を抜く行為までしてリミットまで落とそうとしたという。日本レスリング協会HPが2021年4月15日に報じた計量に関する記事によれば、世界アンチドーピング機構(WADA)の規定にも、瀉血(しゃけつ=血液を体外に排出させること)を具体的に禁止する項目はない。それでも、「血液あるいは血液成分を物理的あるいは科学的手段を用いて血管内操作すること」というドーピング規定に反することは明らかだ。血抜きが事実とするならば、その行為だけでペナルティが科せられても不思議ではない。

 ルール上、順位なしの最下位となったビネシュは自身のSNSを通じて引退を発表した。

「レスリングが勝ち、私が負けた。私の夢は砕け散った。さようなら、レスリング2001-2024。皆さん全てに恩義を感じている。ごめんなさい」

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