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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「甲子園で投げたくないんか。野球辞めろ」誤解された阪神のエース井川慶が明かすホンネ「野村監督の教えで…」と高3時の「井川、大したことねえな」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/16 12:04
阪神のエースとして活躍した井川慶。“誤解されたエース”が20年目にして告白した事実とは
「お前中心で回ってるんだから。お前がコケた時点でチームもコケる」
夏になると勝てなくなった。それでも先発ローテーションを外されることなく投げつづけた。
気づけば192イニングを重ね、重量感のある直球とチェンジアップの緩急を生かし、9勝をマークしていた。毒舌で鳴らす監督の野村克也に「よくがんばったな」と労われたと、素直にうれしくなった。
「自分は爆発的に負けない投手ではなく、イニングを稼ぐ投手なので、ケガをして休んでしまったら価値がない。野村監督の教えでは『投手はどんどんタイトルを狙え』だと。なんとか長いイニングを投げようと。シーズン前にしっかりと目標を立てました」
チームは絶望するほど弱く、この年も最下位に終わった。だから、白星の数ではなく、200イニングと最優秀防御率のタイトルを目標にかかげるようになった。
だが、井川がエースの職分を貫こうとすればするほど、誤解を招いた。メディアに言葉数を費やしても思いが伝わらないことが多く、身を守る鎧のように寡黙になっていった。如才なく立ち回ろうともしない。そんな不器用さが独善的なイメージを生んだ。
ビールかけ不参加と「井川、大したことねえな」
03年9月15日もそうだろう。
リーグ優勝を果たした夜、井川はビールかけに参加しなかった。大車輪の働きで頂点に導き、のちにシーズンMVPに輝いたエースの不在は、チームの和を考えたとき、ちょっとした波紋を呼んだ。だが、彼にはまったく別の思いがあった。マウンドでずっと心がけてきた信念である。
「優勝したとしても、自分は開幕前から30試合くらい先発すると計画しているんです。優勝後の試合を初めて球場に見に来るお客さんもいます。自分はこういう姿なんだ、というのを見せたい思いがありました」
そして、野球人生の苦い原体験を明かす。