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甲子園の風BACK NUMBER
「お前、125キロの直球でどう戦うんだよ…」じつは大社高・石飛監督も半信半疑だった「先発、馬庭じゃないよ!」甲子園がざわついた決断…監督が語るウラ側
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph bySankei Shimbun
posted2024/08/29 11:20
大社高・石飛文太監督(42歳)。甲子園での敗戦後、筆者は島根県の同校を訪ねて監督・選手に話を聞いた
「うちには優れたアナライザーも、采配で勝たせられる名将もいない。もっと言うと、これまで僕の采配ミスで負けてきました。選手たちに聞いてみてください。謙遜でもなんでもなく事実です。だから彼らは、僕の采配を信頼していなかった。ひしひしと感じるんですよ。そこで打たすんかい、バントかい、走らすんかい、みたいな冷たーい視線を。それが嫌だから、基本的にサインを出す前にベンチの選手に聞くんです。『ここどうする?』『バントにする? それとも打つ?』って」
まるで草野球チームのようではないか。監督と選手が相談して采配を決める。それも42歳の監督が18歳の高校生に、である。本当だろうか。
「みんなごめーん! 俺が全部悪いけん」
1番センター・藤原佑に尋ねる。「本当ですよ」と、こともなげに言った。
「今の采配は違うんじゃないか……以前はそう思ったり、チームメイト同士で話したりしても、監督に直接言う選手はいませんでした。そしたら監督からある時『意見があるなら直接言ってきてほしい』と。それがチームの方針になりました。試合中でも監督にサインの意図を聞く。あるいは『バントがいいんじゃないですか』と言ったり。監督のサインが外れた時ですか? 『みんなごめーん! 俺が全部悪いけん』と選手に謝ってくれます。うちでは普通の光景です」
続けて聞いた2番ショート・藤江龍之介は石飛の人物像をこう評する。
「(大人なので)プライドもあると思います……それでも選手の声を受け入れてくれる人です」
早稲田実戦の前日、石飛はこう言っていた。「うちはいわゆる強豪校の監督と選手のような間柄ではない」「僕は選手から信頼されてない」。その発言の意味を少しだけ理解できた気がした。
「よっしゃぁ、俺は勝ったんだ」
だがこの夏、選手から監督へ、ひとつの裏切りがあった。2回戦、創成館戦でのことだ。スコアは2-3の1点ビハインド。8回表1死二、三塁のチャンス。打席に立つ8番・園山純正にどんなサインを出すべきか。迷う石飛に、それまで良き相談相手だったはずの藤江から、想定外の言葉が飛び出した。
「監督さんのチームなんで監督さんが決めてください!」