甲子園の風BACK NUMBER

「お前、125キロの直球でどう戦うんだよ…」じつは大社高・石飛監督も半信半疑だった「先発、馬庭じゃないよ!」甲子園がざわついた決断…監督が語るウラ側 

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田中仰

田中仰Aogu Tanaka

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photograph bySankei Shimbun

posted2024/08/29 11:20

「お前、125キロの直球でどう戦うんだよ…」じつは大社高・石飛監督も半信半疑だった「先発、馬庭じゃないよ!」甲子園がざわついた決断…監督が語るウラ側<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

大社高・石飛文太監督(42歳)。甲子園での敗戦後、筆者は島根県の同校を訪ねて監督・選手に話を聞いた

 石飛は動揺した。が、それを隠して言い切った。「よっしゃ任せとけ!」。藤江の目には、石飛が覚悟を決めたように映った。石飛が内心を明かす。

「参りましたよ。おいいい、お前こんな場面で俺に任すなよ、って。でも、思い切ってスクイズを出して、見事に決まってくれた。采配が当たった瞬間? 安堵なんてもんじゃないです。よっしゃぁ、よっしゃぁ。俺は勝ったんだ。自分に勝ったぞーーーって。叫びそうでした」

 甲子園の間、このスクイズがことごとく決まった。はじめて石飛が満足げな表情を浮かべる。

「この夏、選手たちは少しずつ僕の采配を信用してくれるようになったかもしれないです。ひとつ後悔があるとすれば早稲田実戦の9回裏。あの5人シフトのシーンですね。藤江に『気にせず打て』と声をかけたんだけど、気にせず打った結果、シフトに引っ掛かった。もっと気にすればよかったなと。あの場面こそスクイズだったのかもしれないですね」

「明日いけるか?」「いけます」「マジで?」

 石飛にとって最大の賭けは、準々決勝の神村学園戦、その試合前にあった。「今日の先発、馬庭(優太)じゃないよ!」。知り合いの記者も興奮気味に話しかけてきた、あの決断である。それまで投げ続けてきたエースを先発させなかったのだ。

「それまでずっと、投手陣のキーマンは岸(恒介)。全幅の信頼を置いている、とメディアにも選手たちにも言い続けてました。そうは言っても、いざ投げさせるとなると緊張して。前日に『いけるか(抑えられるか)? 明日』と岸に聞いたら『はい、いけます』と。僕が聞いたくせに驚いちゃって。『いける? マジで? 125キロの直球でどう戦うんだよ……』と思っていたら、はっきり言われたんです。『低めにボールを集めればいけます』と。

 それで実際、初回を三者凡退に抑えたでしょう。僕の投手交代のタイミング次第では試合も違った展開になったかもしれないんですけど。投手が敗因という雰囲気にはならなかった。そこが救いですね。にしても、神村学園相手にいきなり、あんなに堂々と投げられますか?」

「お、抑えた……」。1回表の終了直後、球場に広がった歓声は、そんな驚きと安堵が含まれていた。

「自分は球歴がしょぼいので…」

 石飛は質問に応える際、こんな枕詞をよく使う。

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