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「身長172センチ」「100年に1人の逸材」比嘉もえ16歳の“度胸たっぷり”な才能…アーティスティックスイミング代表、父は「あの野球選手」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2024/07/28 11:02
「100年に1人の逸材」とも言われる16歳の比嘉もえ
父譲りの“度胸”が見えた名場面
高校卒業後、寿光さんは早大に進学。同期の鳥谷敬さん(元阪神、ロッテ)と三遊間でコンビを組み、主将を務めていた4年の時に東京六大学リーグで早大史上初の4連覇を達成した。
2003年にドラフト3位で広島に指名され、2004年に入団。2005年9月の1軍デビュー戦では代打で出て初打席初本塁打を打っている。左手首の骨折などもあって2009年限りで引退したが、父がデビュー戦で見せた度胸の良さも娘は受け継いでいるようだ。
その片鱗が見えたのは昨年、福岡で行われた世界選手権だ。
アーティスティックスイミングは昨年、大幅なルール変更が実施された。フィギュアスケートや体操競技のように、1つ1つの技に難易度が設定され、選手はあらかじめ演技に組み込む技を審判に事前申請。予定通りの技ができなかった場合は大きく減点される仕組みになった。
新ルールになって初めての主要大会だった福岡世界選手権では、デュエットのテクニカルルーティン予選で予定通りの演技が出来ず、まさかの低得点。それでもどうにか決勝進出ギリギリの12位で予選を通過すると、決勝では予選で点が下がった箇所をなくすため、演技構成を大幅に変えることを決断した。そして、限られた練習時間しかない中で構成を組み直して決勝に挑み、終わってみれば見事に優勝した。
比嘉は「最後まで絶対諦めないぞ、という気持ちで決勝まで練習したのでそれが演技につながったと思います。優勝は驚き半分、うれしさ半分というのが正直なところですが、構成を変えて臨んだので不安な気持ちでいっぱいでしたから、今、自分たちができることをやれたのと、それを評価していただいたのがうれしい。短時間で演技構成を変えられたのもすごく自信になりました」と笑みを浮かべた。
自然体で目指す「五輪金メダル」
そして、最年少金メダルについての感想を求められると「本当に光栄なことです」と言い、すぐに表情を引き締めてこう続けた。
「今回は取れましたが、世界はさらにレベルアップしていくと思います。そこに置いていかれないように、まだまだ自分たちを追い込んで、さらにレベルアップできるように頑張りたいという気持ちも生まれました」
中島貴子コーチは「予選は12位ぎりぎりで、一歩間違えば予選敗退だった。運を持っている選手だと感じた」と強運を指摘しつつ、「最後は強い気持ちで乗りきってくれた」と称えていた。
かつては表彰台に上がるのが当たり前だったアーティスティックスイミングだが、東京五輪ではチーム、デュエットともにメダルを逃した。最年少の勢いを持ちながらパリ五輪に出場する比嘉に懸かる期待は大きい。だが、比嘉にはその期待を力にする自然体の強さがある。