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「私が紗理那のチャンスを潰した」セッター宮下遥が今も悔やむ“次世代エース”古賀紗理那の落選…29歳で現役引退の本音も「パリ五輪がんばって」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAsami Enomoto
posted2024/07/26 11:05
リオ五輪を振り返った宮下遥(29歳)。先日、現役引退を発表した古賀紗理那への想いを明かした
岡山シーガルズで日本一になりたいという大きな夢と目標はあったが、一方では「引退」の文字も常に頭の中にはちらついていた。Vリーグで2度目の準優勝を経験した2019/20シーズンを終えた後、真剣に「今季限りで引退します」と河本監督に伝えようと決意していた。だが、宮下の思惑とは裏腹に、新体制の日本代表登録選手に選ばれた。選ばれた以上、断るという選択をできなかった。
宮下が本格的に引退を決意したのは、最後に日本代表入りを果たした2022年のこと。
「ネーションズリーグにも選んでもらって、海外遠征もしたけれど、自分が出たい、出ようという気持ちは全くなかった。むしろ、セナ(関菜々巳)頑張れ、(松井)珠己頑張れって気持ちだったし、大好きな2人や紗理那がキャプテンをするこのチームのために、私はサポート役を全力で務めることしか考えていませんでした。だから、世界選手権のメンバーに選ばれず、私はその段階で代表シーズンが終わって、岡山に帰る時に『あーこれで本当に辞められる。引退できる』って。もう代表に選ばれることはないと確信したし、何より自分自身にその気持ちがない。やりきった、と心から思えたので去年(2022/23シーズン)のオフが終わってから『この1年で最後にさせて下さい』と監督にも伝えました」
辞めると決めてからはバレー教室やさまざまなイベント、日々の練習も常に全力で向き合えて、何より楽しかった。「自分が先頭に立って頑張らなくてもいい」という解放感も、宮下にとって初めて味わうものだった。
パリ五輪「やっぱり、頑張れ紗理那って思っちゃう」
最後の公式戦、引退試合となった今年5月の黒鷲旗男女選抜バレーボール大会では念願の日本一も味わい、最高の形でバレーボール選手・宮下遥として歩んだ日々に別れを告げた。
「バレーボールに恩返しをしたいのはもちろん、私が経験してきたこと、感じてきたことを伝えられたらいいですよね。そのためにも学生時代できなかった勉強もしたい。もっと学べば自分の世界も広がるし、考え方や見え方も変わる。今描くのはそういう超高い理想なんですけど(笑)、バレーを通じていろんな人に出会って、助けられてきたし、これからも助けてもらうと思うので、私なりの形で、人の輪をつなげていけたらいいな、って」
間もなく、パリ五輪も始まる。バレーボール選手の肩書きを外して見る、初めてのオリンピックだ。
「みんな頑張ってほしいですよね。でもやっぱり、頑張れ紗理那って思っちゃうだろうな」
胸を張り、エールを送る。すべて「やりきった」宮下の、皆に愛された、いい笑顔だった。