バレーボールPRESSBACK NUMBER
「私が紗理那のチャンスを潰した」セッター宮下遥が今も悔やむ“次世代エース”古賀紗理那の落選…29歳で現役引退の本音も「パリ五輪がんばって」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAsami Enomoto
posted2024/07/26 11:05
リオ五輪を振り返った宮下遥(29歳)。先日、現役引退を発表した古賀紗理那への想いを明かした
日本が8対12と追い上げたところで、タイはチャレンジを要求。実はこの大会から選手交代やチャレンジ申請を行うタブレットが本格的に導入されており、タイはその操作に手こずった。猛抗議したキャテポン・ラッチャタギャングライ監督は判定が下されても納得いかず、抗議を続けたことで遅延行為と見なされてレッドカードが提示。1点をめぐる緊迫した状況下で日本に1点が加わった。
異常ともいえる中断が長く続いたことが、そこまで流れをつかめずにいた日本にとってプラスに転じた。
中断明け、9対12とリードが縮まった場面でサーブを放ったのが宮下だった。そのサーブはサービスエースとなり10対12。この一本は奇跡の逆転勝利へとつながる大きな1点となった。
「とにかく1点を獲り続けるしかなかったし、あの試合はずっと、サーブが入り続けていたんです。プレッシャーがかかる状況ではあったけど、同じようなところで私には“やらかした経験”がある。同じことを繰り返したくない、という一心であのサーブが打てました」
「シーガルズの日本一を犠牲にしたけれど…」
宮下が“やらかした”と振り返るのが、2013/14Vリーグ、勝てばファイナル進出が決まるトヨタ車体との試合だった。
試合終盤、宮下がサーブを打つ場面で会場の非常灯が点滅した。原因はわからなかったが、危険を知らせる合図かもしれず、状況を確認しなければならない。結果的には誤作動によるものだったが、数分間の中断の末に放った宮下のサーブは、ミスとなり、相手に得点を献上。そのまま逆転負けを喫した。
総力を尽くした結果、翌日の久光戦に勝利し、念願の決勝進出を果たすことができたが、その敗戦で火がついた久光に決勝では完敗を喫した。
「私のサーブミスで、セミファイナルで久光に勝たなければならない状況をつくってしまった。その結果、決勝で出せるはずだった総力をそこで出さなければならなくなって、一番になれるチャンスを失った。その経験、失敗があったから、タイ戦では追い詰められたプレッシャーがかかる状況でもあのサーブが打てたんです。サービスエースを取った時、最初に浮かんだのもまさにそう。私は岡山の日本一を犠牲にしたけれど、リオへの首はつながったって。だからあの試合、あのサーブは、忘れることはできないです」
宮下のサーブで大きな流れを引き寄せた日本代表は、絶体絶命の状況からタイにフルセットで勝利し、その後のイタリア戦でリオ五輪出場を決めた。宮下にとっても目標としてきたオリンピックへの出場権を掴んだ。
ただ、夢見た場所で味わったのは、喜びよりも苦しさだった。
「思い出すのもつらい」
リオ五輪には苦い記憶だけが残っている。