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女子800m「19年ぶり日本新」16歳の新ヒロイン・久保凛の“異質さ”とは? 過去との比較で分かった“意外な事実”「実はドルーリー朱瑛里とも…」 

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和田悟志

和田悟志Satoshi Wada

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photograph byAsami Enomoto

posted2024/07/17 17:02

女子800m「19年ぶり日本新」16歳の新ヒロイン・久保凛の“異質さ”とは? 過去との比較で分かった“意外な事実”「実はドルーリー朱瑛里とも…」<Number Web> photograph by Asami Enomoto

日本女子初の800m2分切りを達成し、日本新記録をマークした16歳の久保凛。過去の記録保持者たちと比べると異質な側面が

 一方の杉森は、もともとは短距離、特に400mを主戦場としていた。

 東京学芸大学時代にも800mを走っているが、卒業する直前にマークした2分7秒22が大学ベスト。当時としては、日本国内では十分に速いタイムだったが、その後の片鱗を見せたに過ぎなかった。

 実業団の京セラに入社し、大森国男監督の勧めで800mに本格的に転向すると、一気に才能が開花。2003年2月には今なお残る室内の日本記録(2分0秒78)を打ち立てている。

800m世界王者のトレーニング内容

 杉森がさらに成長するきっかけになったのは、シドニー五輪金メダリストのマリア・ムトラ(モザンビーク)と一緒のレースを走ったことだった。ムトラは1990年代から2000年代初頭にかけて世界のトップを走り続けた中距離走者で、その筋骨隆々な立ち姿に衝撃を受けたという。

 さらに驚かされたのが、雑誌で目にしたムトラの練習メニューだった。以前、杉森はこんなことを話していた。

「私はもともと短距離出身だったので、練習では短い距離が中心でしたが、ムトラ選手は長い距離の練習をたくさんやっていました。3000mを10本とかやっていたそうです。私は3000mは1本やれば十分と思っていたので、こういう練習をすることで世界一になれるんだと衝撃を受けました。『自分の範囲でしか物事を考えていなかった』と反省しました」

 ムトラとの邂逅が、杉森の中にあった常識を覆したと言っていい。04年のホクレンディスタンスチャレンジで杉森は3000mのレースに出場しているが、その時にマークした記録(9分17秒57)は、奇遇にも、現在の久保の自己記録とほぼ同じだ。

 杉森は全盛期の真っ只中だった2003年に、リスクを承知の上で椎間板ヘルニアの手術を決断している。リハビリを経て第一線に復帰すると、2004年の日本選手権で当時の日本記録(2分0秒46)を打ち立てて、アテネ五輪に出場。この種目の日本人オリンピアンの誕生は、1964年の東京五輪に開催国枠で出場した木崎正子以来40年ぶりのことだった。

 さらに翌05年の日本選手権で、自身の日本記録を0秒01更新。この記録が19年もの間、誰にも破られることがなかった。

【次ページ】 「スピード型」でない久保の躍進が意味するもの

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