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MVPが45分で負傷交代→イングランド逆転の流れと思いきや…“EURO名人”スペインの勝ち筋「ファンの愛に触れたい」「この集団を誇りに」
posted2024/07/15 17:01
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Mutsu Kawamori
史上最多の4度目の欧州タイトル──EURO2024で群を抜くパフォーマンスを披露してきたスペインにふさわしい結末と言えるだろう。
MVPロドリがまさかの前半45分で交代に
緊張感に支配されたような前半がスコアレスで終わり、ハーフタイムにロドリが負傷の影響で交代するとわかったとき、ラ・ロハ(スペイン代表の呼称)のファンは先行きに不安を抱いたかもしれない。
マンチェスター・シティに所属する28歳のセントラルMFは、攻撃のリズムを司りつつ危険を未然に防ぐ、文字通りのチームの心臓だ。今大会のスペインの圧巻の出来を支えていたのは、間違いなくロドリであり、大会最優秀選手にもっとも近い存在と言われていた(決勝に半分しか出なくとも、実際にそうなった)。
だが中盤の底がマルティン・スビメンディに代わっても、スペインの流麗なボール回しは変わらず、再開の2分後に先制点が決まった。右サイドでダニエル・カルバハルがダイレクトで前方のラミン・ヤマルにパスを渡すと、前日に17歳になったばかりのアタッカーは軽やかに中央へ侵入し、ボックス左へスルーパスを送る。そこに駆け込んだのは、2日前に22歳になったばかりのニコ・ウィリアムス。細かくステップを踏んで左足を強烈に合わせ、ジョーダン・ピックフォードの守るゴールを破った。
スペインの新時代を象徴する2人の若きウイングが、12年ぶりの頂点への道筋をつけた。
同点弾で“逆転のイングランド”発動の機運が
しかし決勝トーナメントに入ってから、すべての試合で相手に先行されてきたイングランドは、どこか落ち着いて見えた。そしてギャレス・サウスゲイト監督は61分に、主将のハリー・ケインに代えてオリー・ワトキンスを、70分にコビー・メイヌーの代わりにコール・パーマーを投入。オランダとの準決勝で終盤に同時投入されて、決勝点を奪ったコンビだ。そのときは後者が前者のゴールをアシストしたが、今回はパーマーがネットを揺らした。
73分、ブカヨ・サカが右サイドを駆け上がり、相手を引きつけて中央に折り返すと、ジュード・ベリンガムが倒れながら後方へ落とす。そこに走り込んだパーマーが左足を振り抜くと、ボールはウナイ・シモンの右手を掠めてゴール。
イングランドは俄然、勢いづいていく。