藤井聡太に惜敗も「渡辺、強し」を印象付けた一局に

　勝ったのは藤井だった。師匠が予言した通り、疲れ知らずの王者は、終盤の1分将棋の激戦を制して、土壇場で勝利をものにした。

　終局を見て、報道陣も入室を許される。

　うだるような外の猛暑や、盤上に残る勝負の熱を冷ますかのように、対局室の空調はよく効いていた。

　激闘を終えたばかりの対局者は、主催社からの質問に答える形で端的な言葉を紡いでいく。

　勝者は結果に釣り合わない内容だったことを口にし、反省の言葉を紡いだ。

「結果は幸いしましたけど、内容としては反省するところが多かったと思うので……。そうですね。しっかり振り返って、集中して第2局に臨みたいと思います」

　先月、叡王戦で初めてタイトルを失った藤井にとって、防衛して5連覇で永世資格獲得を目指す上でも、大きな1勝だったと言えるだろう。

　一方で、正しく指していれば勝っていたはずの敗者もまた、自分自身に矢印を向けていた。

「最後に詰みがあるなら、詰まさなきゃいけなかったですね。最後の詰みのところがちょっと見えなかったですね」

　1年ぶりとなるタイトル戦の舞台に登場した渡辺だったが、一つの黒星が刻まれたぐらいで、その評価が下がることはないだろう。むしろ後手番で藤井相手に千日手に持ち込んだ作戦巧者ぶりや、先手番で勝利目前まで迫った研究の深さで「渡辺、強し」を印象付けたようにも見える。何よりプライドをかなぐり捨てて指し続けた泥臭さは、周囲の胸を熱くさせるものがあった。

　2人の全身全霊の戦いは、これからも続いていく。

　第2局は7月17日、北海道函館市の「湯元 啄木亭」で幕が上がる。

＜#1、#2とあわせてお読みください＞

#1から読む

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