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「ウソだろ…」藤井聡太が“1対99”から大逆転、渡辺明は頭を抱え…“衝撃の王位戦”現地で何が起きていたのか「報道陣は“渡辺勝利”で待機していた」 

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いしかわごう

いしかわごうGo Ishikawa

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posted2024/07/12 11:05

「ウソだろ…」藤井聡太が“1対99”から大逆転、渡辺明は頭を抱え…“衝撃の王位戦”現地で何が起きていたのか「報道陣は“渡辺勝利”で待機していた」<Number Web> photograph by Number Web

7月7日、王位戦第1局で「まさかの逆転負け」を喫した渡辺明九段。勝利した藤井聡太王位にとっても苦しい対局だった

 終局が近づいたことで、報道陣にも動きが生まれた。別館の控え室を出て、対局場のある建物の前で待機するように関係者から誘導される。時刻は20時半過ぎ。すっかり陽は落ちていたが、外はまだ蒸し暑かった。

「逆転した!?」「ウソだろ…」まさかの展開に

 対局室には投了まで入れない。

 建物の前で並んで待機している記者は、それぞれがスマホやタブレットを手に固唾を飲んで戦局を見守ることになる。一足先に控え室を出た立会人の藤井猛九段ら関係者一行が、対局室に向かっていく姿が目に入ってきた。いよいよ決着がつくのだ。

 ところが、である。

 信じられないことに、ここから勝負がひっくり返った。渡辺の決め手になるはずだった119手目。龍を4一に切っていくと思われたが、駒台にある銀に手を伸ばし、3二の地点に置いて王手をしたのである。

 次の瞬間、ABEMA解説の鈴木大介九段が「えぇ……!?」と絶句する。そして、99対1となっていたAIの評価値は大きく揺れ動き、一瞬にして23対77に入れ替わった。それは投了も視野に入っていたであろう藤井が、瞬く間に逆転したことを示している。

 まさかの急転直下。

 タイトル戦という舞台で起きた、信じられない逆転劇。観戦していた誰もが目を疑った瞬間だった。待機していた報道陣も激しく動揺し、「えっ、やっちゃった?」「逆転した!?」「ウソだろ……」と、あちこちから声が上がり始める。

 盤上の異変に気づいたのか、画面越しの渡辺の表情も変化があった。饒舌な解説で知られる鈴木も、「私も棋士生活が長いけど、これは初めて見る光景です。渡辺さんが、こんな筋の勝ちを逃すなんて……」と、言葉が少なくなっているほどだった。

2日連続で目の当たりにした「勝負の恐ろしさ」

 これが勝負の恐ろしさか。

 対局場の前で待機する筆者の脳裏には、奇しくも、前日夜の光景が思い出されていた。

 それは盤上ではなく、ピッチで起きた出来事だった。

 ヤマハスタジアムで行われたジュビロ磐田対川崎フロンターレ戦。その試合終盤、2-1と逆転に成功した川崎は5試合ぶりとなる勝利が目前に迫っていた。

 アディショナルタイム、ロングボールをキープして粘る磐田のFWジャーメイン良の中央突破に、川崎の守備陣は必死で対応していた。DFの佐々木旭が素早くカバーリングし、最後尾にいたGKチョン・ソンリョンに向けたバックパスでクリアを促す。あとは、それを大きく蹴り出せば、何も問題はなかった。

【次ページ】 渡辺明は頭を抱え、天井を見つめていた

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