ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
「オイ、殺されるぞ!」窒息死がよぎった前田日明vsアンドレ・ザ・ジャイアント“伝説の不穏試合”のナゾ…「マエダを殺す」記者が聞いていた声
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph by東京スポーツ新聞社
posted2024/07/11 17:00
アンドレ・ザ・ジャイアントのヒザに蹴りを連発した前田日明(1986年4月29日)
窒息死、首が折れてもおかしくなかった
前田 俺も顔面蹴ったりしてやり返すこともできたけど、テレビ中継が入ってたから、もしノックアウトしたらアンドレの商品価値がダメになっちゃうじゃん。それにあの頃、テレビ局の人もプロレスがどういうものかわかってると思ってたんで、今後UWFが独立してテレビをつけようとしても、「あいつは事故を起こすヤツだから使えない」ってなるんじゃないかとか、いろいろ考えてね。かといって、アンドレはプロレスをやろうとしないし、「どうしたらいいのかな……」って思ってね。
藤原 だから俺はリングサイドから「行け! 行かなきゃ殺されるぞ!」って叫んだんだよ。おまえ、羽交い締めにされたまま全体重をかけられただろう? あれ、普通のヤツだったら窒息死してたよ。
前田 片足タックルに入ったら、上から倒れ込むかたちで260キロがグシャッて乗ってきたんですよ。
藤原 あれ、お前の体が柔らかかったからよかったけど、窒息死したり首が折れたりしてもおかしくないからな。
前田 同じようなことをどっかで坂口さんもアンドレにやられて、それで坂口さんが杖をつくようになったんだよね。
――前田さんはあのとき、星野(勘太郎)さんにも確認してましたよね?「行っちゃっていいですか?」って。
前田 アンドレみたいな外国人のトップレスラーを相手に勝手に試合を壊すわけにもいかないからさ、「星野さん、どうしたらいいんですか? このままじゃやられちゃいますよ。やっていいんだったらやりますよ。教えてください」って言ったんだよ。そしたら星野さんが「俺に聞くなよ!」って言うから、「これは困った……」と思って(笑)。
試合前からあった異変「マエダを殺す」記者が聞いた声
――あの時、途中から猪木さんも控室を出て会場の奥から試合を見てたんですよね。
前田 このままじゃ試合にならないから、誰かが乱入して試合を壊してくれるんだろうなと思って日本人控室のほうを見たら、猪木さん以下新日本の選手たちが遠くから試合を見てるだけだし、外国人控室のほうを見たらディック・マードックとかが控室から出て見てるし、「えーっ、誰も来ないの?」と思ってさ(笑)。そしたら藤原さんが来たんだよ。
藤原 俺は奥で見ていてこのままじゃコイツが殺されると思ってさ、リングサイドに駆け寄って、「バカヤロー、行け! 正面からヒザを蹴れ!」って言ったんだ。アンドレは大きいからフットワークはゆっくりだから、どちらか片足に重心が乗った瞬間に正面からヒザを蹴ると、相手は必ず倒れる。あの蹴りは練習してたし、(カール・)ゴッチさんにも教わったよな。
――でも、アンドレに仕掛けられて、返り討ちにしていいのかどうかもわからない中、見捨てられた形になるって恐怖ですね。