濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「燃え尽き症候群」から岩谷麻優が迎えた“キャリアで一番のピーク”…右ヒジ脱臼まで続いた藤本つかさとの“最高峰の女子プロレス”
posted2024/07/12 17:04
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
このまま続いたら、どれだけ凄い試合になるのか。そう思わせる一戦だった。
6月23日、後楽園ホールで行われた岩谷麻優vs藤本つかさ。舞台はアイスリボンの興行だった。“スターダムのアイコン”岩谷と“アイスリボンの象徴”藤本の初シングル。それもタイトルマッチだ。
かけられたのは、岩谷が持つIWGP女子王座。アイスリボンのリングに岩谷麻優が上がっていること、IWGPのタイトルマッチが行われていること。あらゆる面で歴史的な一線だった。立会人は永田裕志。挑戦者の藤本は大会オープニングの挨拶で目を潤ませた。
「悪いけど私(ベルト)巻きますからね」
「あらためてIWGP(王座戦)をアイスリボンのリングで行う許可をいただき、本当にありがとうございます。きっとインディーとかメジャーとか、そういう差別のない人たちが許可をしてくれたんだなと思うと、とても嬉しく感じます。あとは試合に集中するのみです。悪いけど私(ベルト)巻きますからね」
IWGPといえば新日本プロレスのベルトだ。女子王座は一昨年に新設され、岩谷は第3代のチャンピオン。藤本戦は6度目の防衛戦だった。
スターダムは昨年12月から岡田太郎新社長が就任。今年に入ると団体創設者のロッシー小川氏が契約解除となり、新団体マリーゴールドを設立した。新体制のスターダムはさまざまな団体との交流をスタートさせる。親会社ブシロードで声優ユニットなどを手掛けてきた岡田社長曰く「僕は(プロレス)業界で一番NGがない人間ですから」。
かつて藤本と岩谷はアイスリボンのビッグマッチでタッグで対戦するはずだったが、流れてしまった過去がある。「大人ってしょうもな」と藤本は呆れた。時が流れての関係修復。まず藤本がスターダムに乗り込んで勝利し、アイスリボンでのIWGP戦が決まる。
レフェリーストップまで続いた“最高峰の女子プロレス”
岩谷は2011年、藤本は2008年デビュー。長く団体と女子プロレス界を牽引してきた2人の歴史が、ここにきて交わる。岩谷のセコンドにはユニット・STARS全員がつき、試合が始まると最初に“マユ”コールが発生した。大一番中の大一番に、岩谷(スターダム)ファンが大挙して乗り込んできたのだ。アイスリボンのファンもすぐに呼応する。
最高の雰囲気の中、両者は最高の攻防を見せる。蹴り合いを始め意地をぶつけ合い、いつもとは違う工夫を凝らし、その中に単なる潰し合いとは違う明るさがある。最高峰の女子プロレスがそこにあった。