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“失われた10年を取り戻す挑戦”の残酷な結末…金原正徳41歳の闘いはなぜ胸を打つのか? 鈴木千裕に敗れて呟いた「勝ちたかったなぁ」の重み
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/05/03 17:04
4月29日、RIZINフェザー級タイトルマッチで24歳の王者・鈴木千裕に挑んだ41歳の金原正徳。敗れはしたものの、表情は晴れやかだった
「勝ちたかったなぁ」試合後に漏れ出した本音
いったい何が原因だったのか。金原はガードの上からパンチを効かされたことを理由のひとつにあげた。ブロックしても脳を揺らされるという経験は、MMAのキャリア50戦を誇る金原にとっても初めての経験だった。
「練習でもガードの上から効かされたことはない。一発もらったら終わりだと思ってガードは高めに構えていたけど、その上から効かされてしまった」
金原にとっては想定外の展開だったが、鈴木はその直前に左ボディブローを効かせたことがキーポイントだったと振り返る。
「その瞬間、左ボディが効いて動きが止まって目つきが変わったので、仕留めにいきました」
真剣勝負の世界では何が起こるかわからない。だからこそ予期せぬダイナミズムが生まれ、それが醍醐味になる。この日の鈴木からは、多少強引ながらも、一気に試合の流れをたぐり寄せるだけの勢いと自信が感じられた。その若々しいエネルギーは試合後のマイクアピールにもつながっていた。
「これからも絶対王者であり続けます。信じてついてきてください。日本のRIZINを俺が世界のRIZINに変えます」
試合後、配信のゲスト解説席に座っていた朝倉未来が「試合内容は100点、マイクは30点」と言及したことについて訊かれると、鈴木は思い切り噛みついた。
「いいじゃないですか、勝ったんだから。あんたに出来んのかよ、これが。俺にしか出来ないんだよ」
そんな鈴木とは対照的に、金原は勝負師としての本音を呟いた。
「勝ちたかったなぁ」
進退についての直接の言及は避けたが、これが最後のタイトル挑戦のつもりだったことは確かだろう。ほぼ完成にまでたどり着きながら、最後の1ピースが足りなかったMMAという名のパズル。
勝負とは、かくも残酷で美しい。