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“失われた10年を取り戻す挑戦”の残酷な結末…金原正徳41歳の闘いはなぜ胸を打つのか? 鈴木千裕に敗れて呟いた「勝ちたかったなぁ」の重み 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph byRIZIN FF Susumu Nagao

posted2024/05/03 17:04

“失われた10年を取り戻す挑戦”の残酷な結末…金原正徳41歳の闘いはなぜ胸を打つのか? 鈴木千裕に敗れて呟いた「勝ちたかったなぁ」の重み<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

4月29日、RIZINフェザー級タイトルマッチで24歳の王者・鈴木千裕に挑んだ41歳の金原正徳。敗れはしたものの、表情は晴れやかだった

“失われた10年”を取り戻すために

 その頃、金原のセコンドを務めていたパラエストラ八王子の塩田“GOZO”歩代表が、今回鈴木陣営のチーフセコンドとして指示を出していたことにも時代の流れを感じた。

 当然、塩田代表が相手側のセコンドにいたことについての質問も飛んだが、金原は淡々と答えていた。

「だからといってやりにくいということは一切なかった。逆に俺のことをよく知るからこそ、うまく付け入るスキもあるのではないかと思いました」

 続けて、金原はこんなことも言った。

「人はそんなに変わらない。(塩田がセコンドに就いていた)15年前だろうが、自分が思っていることは変わらない」

 MMAは日進月歩で進化し続けている格闘技だ。金原自身、年代ごとにファイトスタイルが変化していることを自覚しているが、その一方で格闘技に対する思いは不変だった。

「自分はずっと光を浴びてきた選手ではないけど、メジャー団体がなくなっても(格闘技を続け)、こうやってRIZINでメインを張らせてもらえることは光栄だと思う」

 金原にとって、戦極(SRC)が2010年12月30日の大会を最後に消滅してから2020年2月22日にRIZINに上がるまでの年月は“失われた10年”だったのか。もちろんその間に世界最高峰の舞台であるUFCにも上がっているので、モチベーションが下がっていたわけではないだろう。ただ、国内に目を向けてみると、事情は大きく違ってくる。

 突破口となったのはRIZINだった。RIZIN2戦目からフェザー級に転向すると4連勝をマークし、今回のタイトル挑戦につなげた。中でも2023年9月の『RIZIN.44』でクレベル・コイケからフルマークの判定勝ちを収めたあたりから、金原に対する評価はさらに高まった。その3カ月前、クレベルが鈴木から一本を奪っていることも再評価に拍車をかけた。

 今回も「金原有利」を予想する識者は多かった。筆者の目には、勝ち上がるたびに、金原が“失われた10年”のピースをひとつずつ埋めているようにも見えた。あとひとつ残るピースを埋めRIZINのチャンピオンベルトを腰に巻けば、かつて手にするはずだった栄光を取り戻せるのではないか――そんな気もしたが、勝負の世界は甘くなかった。勝利の女神は最後の最後で金原に背を向けた。

【次ページ】 「勝ちたかったなぁ」試合後に漏れ出した本音

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