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SNSは複数アカウント運用、突然本人が「撮ってくれてありがとう」とメッセージ…ルイス・ネリを追ったカメラマンが振り返る“お騒がせ男”の素顔
text by
北川直樹Naoki Kitagawa
photograph byNaoki Kitagawa
posted2024/05/05 11:02
山中慎介との2度の戦いを巡る狂騒曲で日本では“悪童”のイメージが強いルイス・ネリ。実際に交流があったカメラマンが語る素顔とは…?
6ヶ月後、両国国技館であった山中vsネリの第2戦にも足を運んだ。
初戦と同様、客席からカメラを構えた。試合前日の計量でネリは1.3kgの体重オーバーを犯していたこともあって、試合会場の雰囲気は初戦以上の熱気……というより殺気を帯びていた。
前戦は、試合ストップのタイミングに物議があったこともあり、今度は山中の左がネリを捉えるのではないか。それとも、ネリが明確な差をつけて山中を退けるのか。鼓動の高なりの中で、試合開始のゴングが鳴った。
初戦の後、胸に大きな翼のタトゥーを彫ったネリは、間違いなく力強かった。
計量オーバーを犯した体つきは、前回よりもハリがあるように見えた。そしてその勢いは、山中を容易く飲み込んだ。2RTKO。ダウンを4回奪う圧勝だった。
またもや空気を読まない雄叫びが、静まり返った国技館をこだました。試合後は山中に歩み寄り、その拳を持ち上げたことを鮮明に覚えている。
これらを思い返すに、ネリは単なる“悪童”とは一味違うのだと思う。無邪気、奔放——。そんな言葉の方が、彼のパーソナリティをより正確に表しているように感じるのだ。
「無邪気なメキシカン」の底知れぬ怖さ
5月6日。29歳となったルイス・ネリが、東京ドームにやって来る。あの試合後、エマヌエル・ロドリゲス戦で計量オーバーを犯して試合を飛ばし、ブランドン・フィゲロアにはボディブローで無惨に倒された。
たしかに選手としての“商品価値”はかつてほど高くはないかもしれない。
しかし、当時の無邪気さと奔放さは健在だ。それは、井上尚弥戦を前にした記者会見での誠実ぶった姿と、メキシコに帰国してからの「イノウエはPFP1位ではない」「日本人に詫びるつもりはない」といった、相反する言動にも現れていると思う。
大型連休最終日の東京ドーム。ルイス・ネリは、“特別ルール”として課された30日前、15日前、7日前の事前計量をクリアし、日本史上最大のボクシングマッチに無事現れるだろう。
その上でどのような無邪気さ、奔放さを見せるのか。私には、“誇り高きメキシカン”ならぬ、“マイペースなメキシカン”に見えるネリが、何事もなくモンスターに屈するとは思えない。
カメラマンとしての自分のタイムライン上に居るネリのことは、良くも悪くも一挙手一投足が気になってしまうのだ。