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“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「なんで新日本プロレスに行かないの?」息子の疑問に父・諏訪魔はなんと答えた? Jリーガーになった息子に伝えたプロ魂と愛のエール
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph bySUWAMA FAMILY
posted2024/04/20 11:02
中学校入学式を前に撮影した2ショット写真。息子・幸成にとってリングで戦い続ける父はずっと憧れだった
「確かに痛そうにはしていたのですが、ご飯の時は普通にみんなで食べていたし、食後も家族でゲームしたり、たわいもない会話をしたり……」
後にアキレス腱断裂と診断されて大怪我だったと判明するのだが、父は右足首に違和感がありながら翌日も車に乗り込み、後楽園ホールのタッグマッチに出場。休養に入ったのは秋山戦から1週間以上が経過してからのことだった。
「僕たちがご飯を食べている横で、あまりの痛さから『ウォ〜』と悶絶していることもあったのですが、『痛そうだね』で終わっていました。僕らの感覚もおかしくなっているんでしょうね(笑)。でも、お医者さんが『普通なら歩くこともできない。でも、ふくらはぎの筋肉だけでカバーできちゃっているよ』と呆れていたことを聞いて、父のプロ魂を感じました。これまでコツコツと鍛え上げてきた肉体と気力で乗り切っているんだ、と」
「なんで新日本プロレスに行かないの?」
父は息子に「一度決めたらやり抜かないといけない」と、ずっと伝えてきた。怪我で長期休養している期間も「プロレスの試合は一人でもレスラーが欠けたら成立しない。だからこそ、俺はリングに立ち続けないといけないんだ」といつも口にしていた。
中学2年の頃、幸成は父に素朴な質問をぶつけたことがある。
「なんでお父さんは、新日本プロレスに行かないの?」
子どもの目からは、父が所属する全日本プロレスより、スター選手揃いの新日本プロレスの方が華やかに映った。
「週刊プロレスとかを見ても、表紙は絶対に新日。全日は白黒ページだったり、後ろのほうに載っていたり。だから新日に行ったほうがもっと有名になれるし、稼げたりするんじゃないの?と聞いたんです」
父は即答した。幸成は今でもこの言葉を鮮明に覚えている。
「俺はな、小さい頃にテレビで全日本プロレスを見てから、憧れて、本当に全日本が大好きで、自分もプロレスラーになりたいと強く願って入ったんだよ。だから、全日本プロレスというものをもっと輝かせたい。自分が全日本を引っ張っていきたいんだよ」
お金や名誉だけじゃない。父を突き動かす根っこにある想いに触れた時、「これがプロか」と痛感した。そして、自分に置き換えた。当時、ジュニアユースに所属していた横浜F・マリノスへの忠誠だった。