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「落ちたなぁーで終わるのは嫌なんです」陸上界のニューヒロイン・山本有真24歳が語る“引退観”…目標は田中希実らと「一緒にパリ五輪に」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/05/01 11:07
パリ五輪出場を目指す山本有真(積水化学)
「田中(希実)さんは、異次元です」
今、山本は、ブダペストでの悔しさを晴らすべく、5000mでパリ五輪出場権を獲得しようとしている。5000mの参加標準記録は14分52秒00で、山本の自己ベストは15分16秒71だ。24秒の差を日本選手権で乗り越えていくことになるが、出場権をブダペストの時と同じくワールドランキングで獲得できる可能性もある。
「タイムとワールドランキングの両方で出場できる可能性がありますが、私はワールドランキングがあるので、日本選手権に出場し、3番以内に入ればパリに出場できることになります。他の選手はランキングを上げるのにいろんな大会に出ないといけないですが、さいわい私は日本選手権だけに絞って練習を積めます。その時間を有効に使ってパリを決めたいですね」
パリ五輪の5000mを狙う選手には、14分29秒18の日本記録を持ち、唯一パリ五輪参加標準記録を突破している田中希実(New Balance)、同世代の廣中璃梨佳(JP日本郵政G)、そして五島梨乃(資生堂)らがおり、強豪揃いだ。特に田中とはブダペストで一緒に走っており、大舞台での強さを感じている。
「田中さんは、異次元です。昨年、5000mの日本記録を更新しましたけど、ほんとありえないですよ。田中さんは、すごく話しやすいですし、普段はめちゃくちゃ近いんですけど、走りではかなり先を行かれています(苦笑)。でも、私は一緒にパリ五輪に行きたいですし、追い越すとまではいかないけれど、5000mで一緒に戦っていると言えるぐらいのレベルまで行きたいと思っています」
「日本代表を背負ったまま一番いい時期に辞めたい」
パリ五輪では5000mを目指すが、その先は何を目指していくのだろうか。山本の走力を考えるとマラソンが思い浮かぶ。トラックで磨いたスピードを活かして25歳ぐらいからマラソンに転向していくのは、アフリカではよくあるパターンだ。山本もその道程を歩めば、マラソンでも何かやってくれそうな気がするのだが……。
「マラソンですか? もう、絶対にキツいですよね(苦笑)。キツいのは無理。やりたくないです」
山本は、そういって首を小さく横に振った。
パリ五輪を終えても山本は、まだ24歳だ。次の2028年のロサンゼルス五輪も十分に狙えるところにいる。結婚、出産などライフステージの変化を迎える可能性はあるが、出産しても現役を続けるランナーもいる。最近では多くの選手がアスリートとして息の長い活動を実現できているが、山本はちょっと考えが違うようだ。
「最近は、長く現役を続ける人が多いですね。(寺田)明日香さんとかもすご過ぎます。子どもを産んでから走るなんてできないですよ。なんで、あんなに走れるのかなって思いますもん(笑)。私は、20代で結果を残して、日本代表を背負ったまま一番いい時期に辞めたいです。この人、落ちたなぁーって結果を出せない状態で終わるのは嫌なんです。今、世界でいい経験が出来ていますし、この先、パリ五輪や来年の東京世界陸上に出場できて結果を残すことができたら十分かなと思っています。それで良くないですか(笑)」
美意識が高いことと独特の引き際の美学は、美しく、輝いた自分でいたいという点で共通しているようだ。その輝きを、その時までどのくらい強く、眩しいくらいに放つことができるのか。
それを一番楽しみにしているのは、きっと山本自身に違いない。
《インタビュー第1回、第2回も公開中です》
(撮影=杉山拓也)