令和の野球探訪BACK NUMBER
実績は「独立リーグNo.1」でも「調査書は1球団も来なかった」“独立リーグ→台湾プロ野球”へ直行…異色のキャリアの26歳が海外から狙う下剋上
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2024/04/16 11:00
埼玉武蔵ヒートベアースから台湾プロ野球の台鋼ホークスへ移籍した小野寺賢人。独立リーグではタイトル獲得など結果を残したが、NPBから声はかからず
未来を描きやすいのは体が大きくて球速が速い、若い投手だ。例えば、昨年のドラフト会議で2位指名という高評価を得た独立リーグの投手、大谷輝龍(日本海リーグ・富山→ロッテ)と椎葉剛(四国アイランドリーグplus・徳島→阪神)はともに身長が180センチ以上あり、最速159キロで23歳と21歳だった。
その点、小野寺は昨年時点で25歳、球速も140キロ台がほとんど、身長も180センチに満たない175センチ。実際に筆者が取材した試合も、NPB球団のスカウトが複数視察に来ていたが、お目当ては明らかに他の小野寺よりも若くて速い投手で、制球力を武器にゲームメイク能力が高い小野寺が8回までマウンドに上がり続けると「まだ、投げるのか……」という雰囲気が漂っていた。
こうしてNPB関係者には強い興味を持たれなかった小野寺に訪れたチャンスが台湾からのオファーだった。
昨年11月、12月に台湾で行われたアジアウインターリーグに台鋼ホークスのテスト生として招聘された。すると「コントロールには絶対の自信があったので」と4試合に登板し防御率0.92、特に決勝戦では8回まで無失点の好投を見せてチームを優勝に導き、今年の本契約を掴み取った。
独立リーグ→台湾プロ野球のキャリアは「異色」
これまでNPBで峠を過ぎた選手や、再起を期す投手が台湾でプレーすることや、社会人野球の選手が台湾でプロ選手になった例は多くあるものの、国内独立リーグから直接、台湾プロ野球入りしたのは知念広弥(新潟→統一ライオンズ)ら、わずかな例しか無い。
それだけに小野寺は活躍して先駆者になりたいという意気込みも強い。
「周りの期待も感じます。人が通ってない道で思いきってチャレンジしたいです」
ここまで2試合に先発して、まだ勝ち星は無いが、4月10日には鈴木との日本人対決となった試合で6回2失点と試合を作った。
道なき道を進んだ先に、どんな景色が待ち受けているのか。引退間際だった男は、ひと筋の光を辿って懸命に腕を振り続けている。