格闘技PRESSBACK NUMBER
日本人が知らない偉業“ムエタイのPFP1位”吉成名高23歳は何がスゴい? 怒涛の29連勝も「まだ会場が震えるような試合はできていない」
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byHiharu Takagi
posted2024/04/13 17:00
ラジャダムナンで外国人選手初の3階級制覇を成し遂げるなど、ムエタイでPFP級の活躍を続けている吉成名高(23歳)。最大の武器は圧倒的なスピードだ
「自分よりスピードが速い選手はなかなかいないと思う。だからいつもスピードを活かして戦うことを意識しています。スピードで上回ることで相手の反応も遅れ、こっちの攻撃が見えなかったりするので、ダメージもどんどん溜まっていく」
「僕はまだ会場が震えるような試合はできていない」
その一方でギャンブラーを熱狂させる細かい駆け引きのスキルも兼ね備えているのだから、PFPで1位に選出されるのも頷ける。主戦場とするRWSは「新しいムエタイ」を具現化する大会として知られており、ここでは攻撃重視のムエタイを際立たせている。
「RWSはラウンドごとのマストジャッジになっているので、ラウンドごとに必ず優劣がつく。そうなると、攻めた方がポイントをとれるので、RWSのタイトルマッチでは最初から行く選手が多い。後出しジャンケン(カウンター重視のスタイル)のようなムエタイでは、ちょっと通用しないかなというのはありますね」
最近は日本で試合をすると、吉成のまわりにファンがどんどん群がるようになってきた。タイで火がついた人気は日本でも沸騰寸前なのか。吉成と親交のある武尊は「吉成選手の3階級制覇はボクシングの井上尚弥選手の偉業に匹敵する」と声を大にして訴える。
吉成は「尊敬する選手のひとりである武尊選手からそう言ってもらえることはうれしい」と前置きしたうえで、自分にムチを打つ。
「でも、僕はまだ武尊選手のようにファンを勇気づけられるような、会場が震えるような試合はできていないですから。井上尚弥選手は拠点(ジム)が同じ横浜ですし、憧れですね。自分もムエタイで井上選手のような存在になれたら、と思います」
4月14日には、千葉で開催されるRWS日本大会でタイを拠点に活動中のケビン・マルティネス(スペイン)を相手に今年3戦目を行う。この一戦がバンタム級に近い体重設定で争われるのは、近い将来4階級制覇に向けて動き出すための布石だろう。
目にも留まらぬ鋭い攻撃を武器に、吉成は日本ではまだマイナーな域から抜け出せない立ち技格闘技を一般大衆に浸透させることができるか。その可能性は十分にある