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19歳で妊娠が判明「ゴルフよりも、命を優先したかった」4度目で悲願のプロテスト合格…ママさんゴルファー神谷和奏22歳の挑戦
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byGetty Images
posted2024/04/03 11:03
4度目の挑戦でプロテストに合格し、今季からステップ・アップ・ツアーに参戦する神谷和奏(22歳)。出産してからの合格は史上初の快挙となった
横峯然り、2021年に優勝した若林舞衣子、今季復帰した宮里美香といったママさんプロゴルファーは、ツアーの産休制度の拡充とともに女子ゴルフ界の新時代の象徴項目のひとつである。その流れも相まって、ママさんルーキー誕生のニュースも反響は大きかった。
インスタのストーリーで、ゴルフスイングやコスメ情報よりも、子育てアイデアばかりが提案される神谷のスマートフォン。多くの応援の声が届く一方、醜い憂さ晴らしに付き合うのもこの時代ならではである。「プロはそんなに甘い世界じゃない」という厳しい意見ならまだマシで、誹謗中傷めいたメッセージが届いたのも一度や二度ではない。
「私ではなくて、夫に対する言葉も。すべての方に理解してもらうのは難しい」。出産がプロゴルファーとしてのキャリアの妨げになったという見方がある。「でも、どんなことにも“タイミング”ってあると思うんです。それに私は(妊娠・出産が)ゴルファーとしても良い方向にしかいかなかった」のが、彼女が感じている真実だ。
可能な限りは家族と一緒に転戦生活
最近、2歳半になる咲凜ちゃんと少しずつ会話が成り立つようになったのがうれしい。日常の小さな喜びは、その裏にある何倍もの苦労の裏返しでもある。朝の身支度を終えて我が子を保育園に送り出し、家事に練習、トレーニングを挟んで、延長保育の時刻までにお迎えに行く。「思うようにいかないのが子育て」。それはきっとゴルフにも通じるものがある。
「妊娠した当初は自分が子育てなんて無理じゃないかと思っていた。でも、生まれたら母親になるしかないんです。本当に母親になれるかはそれからの行動で変わる。それに、ひとりでできないなら、人に助けを求めて、みんなで子育てしたっていいと思います」
妊娠中、神谷は空き時間を利用してスポーツ栄養スペシャリストの資格を通信教育で取得した。今後のキャリアにきっと役立ちそうで、“合格”をクールに受け止めている。
「取ったからといって、何かが変わるものでもなくて。資格ってそういうものだなあって感じました。プロテストも受かるだけでは変わらない。それから自分で動かないと」
ルーキーイヤーの主戦場は全20試合の下部ステップ・アップ・ツアー。子持ちであることを「ハンデだとは思わない」ときっぱり口にした。
「他人が経験していないことを経験しているのはきっと強みになる。他の選手が感じ取れない感情を、自分は感じ取れている自信がある。時間の大切さ、使い方、練習の必要なこと、必要でないことを学んできた。焦りなんかはないです」
幼少期の子どもは、多くの時間を家族と一緒に過ごすことと並んで、たくさんの場所で目にするもの、感じるものをシェアすることで、成長が促されるという話を耳にした。だから年齢的にも可能な限りは、全国の転戦生活を家族で一緒にするつもり(実際に欧米ツアーではそういった選手が多い)。
「夢? 人に勇気を与える選手になりたい……というのはあるんですけどね。一番は娘の母親でいたい。そこは忘れないように、選手生活を過ごしたい」
その挑戦には、終わりがない。