「監督さんは多分、僕のことを知らなかったと思うんですよ。県外って言うと、スカウトされて入るみたいなイメージがありますけど、僕の場合は本当に飛び入りで練習会に参加して、お世話になることになったという流れで」

　川越が選んだ学法石川には、柳沢が掲げる不変の訓示があった。

「闘志なき者は去れ」「苦の中に光あり」

　これはグラウンドに大きく刻まれており、いかに監督が重んじるフィロソフィーであるかすぐに理解できた。

「グラウンドは闘う場所であるということ。練習や試合で苦しんで、もがいて、もがいた先に光が見えてくるという。そう教わりながら野球をしていましたね」

学法石川を卒業後の川越は青学大→日産自動車を経てドラフト2位でオリックスへ入団した　©️JIJI PRESS

1日10時間の猛練習、300球の投げ込み

　高校時代の川越は、「苦の中に光あり」を強く体現してきた。

　2年生の夏。1年生から2年連続で夏の甲子園のマウンドを経験するエース、古市丈之を擁するチームは、福島県内の公式戦で42連勝中と無敵を誇っていた。野手として主力だった川越自身も「甲子園に出るものだと思っていた」と確信して疑わなかったが、県大会4回戦で白河に2-5と不覚をとった。

　王座から陥落後、川越は古市から「絶対エース」の座を継承した。新チームとして迎えた夏休みの練習は過酷を極め、「今やれと言われても無理」と苦笑いする。

「甲子園に行けないと、夏がすごく長いんで……。30年以上前の高校野球の強豪校って練習量で言ったらどこも相当だったでしょうし、うちも多分、休みはなかったと思うんですよね。敗けた時点で『春のセンバツに出る』と秋の大会に向けてしっかり練習できた、というのは間違いなくありましたけど」

　当時の記事を読み返すと、新チームが始動した学法石川はこの時期、1日10時間の猛練習に、県外チームとの練習試合も20日間、敢行したとされている。エースとなった川越も数十キロを走り込み、ブルペンに入れば200から300球の投げ込みを行う。そして、練習試合ではマウンドに立ち続けた。

　川越がいた80年代から90年代の高校野球は、それが当たり前だった。

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