「今みたいに情報や選択肢が多かったわけではなく、『走る』『投げる』が練習の基本だったんで。それを人より多くやりましたし、試合でも他にピッチャーはいましたけど『自分が投げる』って思いでしたから。昔はみんな、そんな感じだったんじゃないですかね」

　川越の言う「昔」は、自分で追い込んでいるという自覚があるからこそ、怪我のリスクとも真正面から向き合えていた。秋の県大会直前に疲労性の腰痛を発症したことがそうで、川越は治療院に通いながら痛みと付き合い、県大会から腕を振り続けた。

　身長172センチ。体格に恵まれているとは言えないピッチャーは、テイクバックを鋭く、フォロースルーを大きくすることで、130キロ台後半のストレートに威力をもたらす。学法石川の絶対エースは、秋の福島を制して挑んだ東北大会でも3試合連続で完投し、チーム15年ぶりとなる優勝の立役者となった。

「腰の痛みはありましたけど、まったく投げられないほどではなかったんで。夏に敗けてからセンバツに向けてチームがひとつになっていましたし、自分だけじゃなくてみんなも苦しい思いをしながらも乗り越えようと頑張っていたんで。怪我をしたとか、その辺に関して悔いはありませんでしたよね」

1月に33年ぶりとなるセンバツ決定の一報を受け、歓喜する学法石川野球部のメンバーたち　©️Genki Taguchi

33年前のセンバツでは母校に初勝利をもたらす

　東北王者として臨むセンバツ。

　絶対エースであり、4番バッター。チームの大黒柱である川越は、初戦で小松島西を相手に94球、6安打完封。学法石川にセンバツ初勝利をもたらしたが、ベスト8を賭けた鹿児島実との2回戦では一転、15安打7失点と相手打線に掴まり敗れた。

　故障を抱えながらもマウンドに君臨し、甲子園出場の原動力となった。苦しんだ末に光を見た。そんなセンバツだったのではないか――川越に尋ねると、「そうでもないです」とすぐに反応した。彼にとってセンバツは、まだ「苦」の途中だったのである。

「冬の練習もきついなか頑張ってきたんで、自分ではさらに力をつけたと思っていたんですけど、1回しか勝てなかったんで。全国レベルの高さを知って、『まだまだ練習が足りないな。勝ち上がっていくために成長しないといけないな』と思っていました」

　自分が投げ切って、勝つ。

　それは、昔も今も変わらぬ、絶対エースと呼ばれた男のエゴイズムである。

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