現代の高校野球は、公式戦で「1週間500球」の球数制限が設けられているようにピッチャーの分業制が主流になっている。だが、そんな時代においてもマウンドでプライドをむき出しにするピッチャーはいる。

　2022年センバツの近江・山田陽翔は初戦から完投を続け、準決勝で左足を負傷しながらも延長11回を投げ切り、決勝戦でも先発マウンドに上がった。昨年のセンバツで優勝した山梨学院のエース、林謙吾は6試合で4完投。全54イニングのうち51回2/3とほぼひとりで投げ抜き、総球数は696球に上った。

　絶対エースの存在を美化するつもりはないし、彼らへの依存に対するドグマに落とし込むつもりもない。それは、「投げ抜く」ことを体現した者だけが語れることだ。

　川越は議論が尽きない難題から目を背けず、自分の想いを述べる。

「勝ち上がるとどうしてもスケジュールが厳しくなって連投になってしまうんで、いいピッチャーがたくさんいたほうがチームは回ると思うんですけど。でもやっぱり、エースとしてマウンドに立つ以上は、みんな完投、完封を目指したいと、僕は思うんですよね」

「当時のことを今の子に言っても響かない」

　91年は、艱難辛苦をマウンドで全うしてこそ評価される時代だったのかもしれない。

　しかし、33年が経過した今は「苦」の解釈が変わっているだろうし、そうでなければいけないのだと川越は柔軟に考えている。

「当時のことを今の子に言っても響かないですよ。野球に限らず、物事って失敗から学んで、次にチャレンジして、さらに強くなるというか。そういう意味での『苦の中に光あり』は、今でもあると思っています」

　時計の針を、再び91年に戻す。

　センバツに出場した学法石川は、夏も盤石の強さを誇示して福島を制した。川越も6試合中4試合36回を投げ4失点と、絶対エースの面目躍如のパフォーマンスを披露した。

　歓喜の瞬間。川越が最後のバッターを打ち取ると喜びを爆発させ、グラブを放り上げる。あろうことか、それが数秒後に自分の頭上に落下してしまうという一幕があった。

「ああ、はいはい！　ありましたね」

　川越が、声を弾ませて懐かしむ。

「誰かがグローブを投げてきたと思ってたんですけど、自分のだったっていう。コントロールがよかったんでしょうね」

　苦の中に、笑いもあった。

＜「プロ野球コーチ編」につづく＞

#2に続く

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