「ただ世界選手権や五輪といった、ここぞという試合では一番重きを置いている種目にフレッシュな状態で出場する方がいいと思うから、その辺はしっかり考えて臨んでね」

　頷きながら聞いていた田中が、「ポーラさんはどの種目が好きでしたか？」と質問すると、ラドクリフは笑顔でこう答えた。

「私も1500mが好きだったけれど、あまり速くなかったの（笑）（※自己ベスト4分05秒37）。結局、一番適性があったのはマラソンだったんでしょうね。1500mは戦術を使う暇もなくあっという間に終わるから、そのスピード感が好きだったけれど、マラソンは戦術を立てて、レース中にそれを試したりできるのがおもしろかった。ノゾミもいつかマラソン走ろうと思ってるの？」　

　頷きながら「母がマラソンを走っているので」と田中が伝えると、ラドクリフは「そうそう、知ってる！」と返した。

「頑張ってね。また会いましょうね」

　ラドクリフの言葉を田中はどう受け止めたのだろうか。

ライバルから刺激…負けず嫌いに火がついて

　それから3時間後に行われた男子1500mでは米国の20歳ケスラーがスタート直後から引っ張り、最後の50mで交わされたものの3位でフィニッシュ。女子は田中がボストンで一緒に練習した25歳のエミリー・マカイが残り400mで先頭に立ち、最後に2選手にかわされたものの同じく銅メダルを獲得した。2人ともシニアの世界大会は初出場で下馬評はあまり高くなかったが、果敢に世界に挑んでチャンスをものにした。

「800mや1500mを見たら、（出ていないことを）悔しくなってくると思う」

　レース前に田中は話していたが、年齢の近い選手たちの活躍をどう受け止めたのだろうか。負けず嫌い魂に火がついているかもしれない。

　4月から屋外の試合が始まるが、パリ五輪に向けてレベルの高いレースに出場し、レース技術、タフさ、そして勝負勘を磨いていく。