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「ノゾミもいつかマラソンを走ろうと思ってるの?」アジア新記録を樹立した田中希実は、元マラソン世界女王ラドクリフの問いにうなずき…
posted2024/03/07 17:00
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Ayako Oikawa
「殻を破りたい」
陸上の中長距離を牽引する田中希実が、再び世界に挑んだ。
3月2日英国グラスゴーで開催された世界室内選手権、3000mに出場した田中希実は、自身の持つ室内日本記録はもちろん、従来のアジア記録を3秒以上も上回る8分36秒03で8位入賞を果たした。
「ハイペースだったのでラッキー」
記録の予感はあった。
号砲と共に5000m世界記録保持者のエチオピアのツェガイなどアフリカ勢が飛び出し、400mのラップが66秒という速いペースで進んだ。
16人の集団は一気に縦長になるが、田中はためらうことなく先頭集団につく。
「ハイペースだったのでラッキーだと思ったし、最初の1000m(2分49秒)を過ぎても全然キツくなかったのでワクワクした」
室内特有のキラキラとした照明が颯爽と走る選手を照らし、1周200mのトラックを選手たちは小気味良く駆け抜ける。
1400mくらいから田中の視線が少し下に落ちる。1500mを4分13秒で通過したが、「1000mまでは8分30秒も切れるかもというくらい楽に走れていたのに、嘘のように急に動かなくなった」と田中。きつい状況を打開しようと、フォームを少し前傾気味にして推進力をもらいながら進む。
田中はジリジリと遅れたものの、必死に前を追い、先頭から3秒遅れて2000mを5分38秒で通過する。
体が少し横振れしたり、視線が落ちたりするたびに必死に堪えて視線を上げ、腕振りをコンパクトにして前の選手を追いかけ、最後は8位でフィニッシュした。
アジア記録を出せて、アピールできた
世界選手権で再び価値ある8位入賞となったが、「今はどれだけ頑張っても入賞がギリギリ。欧米の選手はアフリカ勢を相手にメダル圏に食い込もうとしている。私は実力的にまだ遅れをとっていてそれがもどかしい。今日もペースが上がってすぐに振り落とされてしまった。フィジカル的にも技術的、精神的にも追いついていないのかな」と反省が口をついた。