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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥とスパーして確信「世界は遠くない」自称・天才の阿部麗也30歳が“楽しくないボクシング”を続ける理由「サラリーマンだから耐えられた」
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/03/01 17:04
日本時間3月3日に、ニューヨークで行われるIBF世界フェザー級タイトルマッチに臨む阿部麗也(30歳)。紆余曲折を経て、世界戦にたどり着いた
2020年に入り、阿部の快進撃が始まった。3連勝で再び日本タイトル戦のチャンスを掴んだ。相対するのは、フェザー級の日本王者及びWBOアジアパシフィック1位の丸田陽七太(森岡)。結果的には、この一戦がボクシングファンに阿部の名前を浸透させた一戦となる。
KO率も高かった丸田は、若手のホープとして高い評価を得ていた。下馬評は圧倒的にチャンピオン有利。阿部が当時の心境をこう振り返る。
「本当に強い相手だったので、自分から前に出ないと勝機はない。4度目はないと分かっていたので、最後のチャンスという強い気持ちでのぞみました」
ゴングが鳴ると阿部は果敢にインファイトを仕掛けて丸田に迫り、ダウンを奪う。ロープ際で強打を浴びせるなど、スタイルを変えた阿部のペースで試合は進む。丸田も意地を見せ、阿部に右目上部から出血を負わせるなど追い上げをみせたが、判定では大差がついた。3度目の正直で下剋上を果たし、ようやく王座の称号を得た瞬間だった。なお、阿部はこの試合で2022年度の年間表彰でプロボクシング部門「努力・敢闘賞」にも選出されている。
阿部が「サラリーマン」を強調する理由
念願だったチャンピオンベルトを巻いても、阿部に微塵も慢心はなかった。
「2度も失敗しているので。すぐに次は世界だ、と自分でも驚くほど切り替えが早かった」
次戦では、前田稔輝(グリーンツダ)に判定勝ちして、王座を防衛。2023年4月には、長谷川穂積の3階級制覇を阻んだことでも知られるスペインのキコ・マルチネスに完勝し、IBF世界フェザー級挑戦者の権利を得た。
試合終了後、マイクを手渡された阿部からは、思わずこんな言葉が溢れた。
「サラリーマンボクサーです」
認知を広めるべく一番インパクトのある言葉を選んだ、という意図もあった。しかし、職場や自身を支えてくれた人々への思いゆえに、自然と漏れた本音でもあった。
こうして阿部は、IBF世界フェザー級で2度の防衛記録を持つ、ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)という難敵にたどり着いたのだ。