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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥とスパーして確信「世界は遠くない」自称・天才の阿部麗也30歳が“楽しくないボクシング”を続ける理由「サラリーマンだから耐えられた」
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/03/01 17:04
日本時間3月3日に、ニューヨークで行われるIBF世界フェザー級タイトルマッチに臨む阿部麗也(30歳)。紆余曲折を経て、世界戦にたどり着いた
広辞苑で『天才』と引くと、「天性の才能。生れつき備わったすぐれた才能」と記されている。そして、こんな言葉が続く。「また、そういう才能を持っている人――」
デビューから「天才」という言葉を自身に投げかけ、背負うことを選んできた阿部が考えるボクサーとしての才能の定義はこんなものだ。
「多分、僕の才能は継続できたことなんです。でも、ボクサーって実はこれが一番難しい。だって、自分を信じられないと継続って出来ないので。特に今の時代は。そういう意味では、桜木と一緒かもしれないね(笑)。時にはふざけながらも周りに支えられ、流川という才能を前に挫折しそうになっても諦めずに努力できた、という点においては」
「会社やジムに不義理をしていたら…」
約束の取材時間が過ぎても、阿部はひょうひょうと、そして淡々とした口調でこちらの質問に言葉を返す。もし仮にサラリーマンを辞め、ジムを変えていても世界にたどり着いていたと思うか。取材の最後にそう問いかけると、ほんの少しだけ表情が変わったように映った。
「それは……どうですかね。ただひとつ言えることは、サラリーマンとしても生きてきたからこそ行動に責任感が持てた。仕事ひとつとっても、僕のために犠牲になってくれる人がいて、みんなの協力のもとでリングに上がれるありがたみも心から分かった。たぶん僕はその関わる人の数が多かった。だから、決して楽しくもない、日々のツラいトレーニングも耐えられた面はありますよ。
体のあちこち痛くても仕事を休まなかったのは、もはや男の意地(笑)。自分のためという狭い視野で、会社やジムに不義理をしていたら、ここまで頑張れたかは怪しい。でも人間って、たぶんそんなもんじゃないですかね。ボクシングってね、楽しいと思えるほど簡単なスポーツじゃないので」
中南米勢の層が厚いフェザー級では、2010年の長谷川穂積を最後に日本人は王座を獲得出来ていない。現地のオッズもチャンピオン有利に偏っている。階級の壁も含めて、簡単な挑戦ではないことは周知の事実だ。それでも会長室にかけられたカレンダーが視界に入ると、3月3日の日付には赤文字で「レイヤ 世界タイトル奪取!!」と力強い字体で書き込まれていた。
「自称・天才」のサラリーマンボクサーは、その双肩にかかる希望の重みを噛み締めながら、変則メキシカンからベルトを奪うべく拳を振るう。