「（賢悟さんは）コーチに就任して表情が全然違うんです。よくしゃべるようになったし。現役を退いたときは本当に暗い顔をしていてずっと心配だったので……。台湾に行って、選手や周りの方々に恵まれて、会うたびに表情が明るくなっているんですよ。本人にとっては大きな決断だったと思いますが、楽しそうな姿を見ていると、台湾に行ってくれてよかったなって」（高市）

　現役引退後は所属先で会社員として働いていた賢悟さん。思いも寄らぬオファーを受け、退路を断ち、昨春、国外で指導者として道を歩み始めた。

　高市も賢悟さんも「本当に連さんには夫婦そろってお世話になっているし、いつも元気をもらっているんですよ。夫婦にとっての恩人です」と連に感謝する。

「彼女も連さんに相当救われていると思います。だからこそというわけではありませんが、連さんに悔いなくやり切ってもらえるよう、精一杯、台湾代表のコーチを務められたらなと思っています」（賢悟さん）

高市夫妻の恩人である台湾代表・連珍羚（左から2人目）。賢悟さんが指導する楊勇緯の姿も（写真／本人提供）

パリ五輪で“夫婦対決”が実現する!?

　今夏、高市は日本代表として、夫は台湾代表のコーチとしてパリ五輪に挑む。

　夫と戦うわけではないが、高市としても少なからずやりづらさを感じるのではないだろうか。

「彼は台湾の選手を勝たせなきゃいけない立場だし、私は日本の代表選手として戦わなければいけない。仮に、もし彼が女子63kg級の台湾代表の選手のセコンドについて私と対戦するとなったときも、私は全力で行くからと伝えてます。もちろん、向こうも全力で私を倒しに行くからって」（高市）

同じコマツに所属し、チームのムードメーカー的な存在でもある連珍羚（女子57kg級）は高市にとってかけがえのない存在になっている　©︎Miki Fukano

　台湾の選手にとって金メダル候補がズラリと揃う日本人選手は大きなライバルとなる。

　そのチームのコーチとして、「（日本選手を）倒してやりたいという気持ちはあるし、台湾チームを一生懸命サポートしたい」と賢悟は言うが、高市に関しては「シンプルに応援してる」と夫としての顔をのぞかせる。

「東京やリオの時のように怪我に悩まされてうまくいかないということがないよう戦い切って欲しい。もちろん、金メダルを取れれば一番すっきり終えられるんでしょうけど、何よりもパリでは彼女が持っている力を出しきって、すべてが終わったときに“やり切った”と思えるようにしてもらいたい。ただそれだけですね」

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