ひとたび畳に上がれば、勝ちたいというアスリートとしての本能が何よりも勝る。　

　リオ以前から、東京を経て、そしてパリへの歩みを傍で見守り続けてきた夫は、妻の強さをあらためて実感している。

「あとがない状況でしっかりと勝ち切る気持ちの強さがあると思いますね。もちろん、柔道そのものの実力は前提としてありますが、それだけではきっと勝てなかった状況がこれまで幾度もあったので。そういった意味で、彼女の覚悟の決め方というか気持ちの強さは、柔道家・高市未来の強さだと思います」

　柔道以外のことはそこまででもないが、ひとたび柔道のことになると、「頑固」。最後までやり抜くという信念を賢悟さんは感じている。

©︎Miki Fukano

　昨春の世界選手権では「計画通りにいかなくなってパニック状態になってしまった」と反省する高市。パリではそんなことをもすべて想定内に、「どんな状況になってもそれが自分だし、それも含めて人生」だと思いながら平常心で臨む。

「とにかく長い間、畳の上で戦えるように」

　エッフェル塔の側にあるシャン・ド・マルス・アリーナで開催されるパリ五輪。

　妻は日本代表選手として、夫は台湾代表のコーチとして夢舞台に挑む。

「夫婦で立てるなんて、ちょっと感慨深いものがありますね」（高市）

　“甘い”結婚生活はもうしばらくお預けになりそうだ。

（全2回・完）