濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「僕ができるのはここまで」武尊が流した涙の“真意”とは? スーパーレックも「倒されるかと」名勝負を生んだ2人はいかに“超一流”だったか
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byONE Championship
posted2024/01/29 17:41
スーパーレックに敗れた武尊は「僕ができるのはここまでです。これ以上の体を、僕は作れません」と涙ながらに語った
逆に言えば、スーパーレックは武尊のラッシュをしのぎきるほどの選手だったということ。試合で感じた武尊の強さについて聞かれた彼は言った。
「武尊選手は強かったですが、驚きはしませんでした。彼が世界一タフな選手だというのは知っていましたから」
5ラウンド終盤にはクリンチが目立った。武尊の攻撃を寸断するにはそれしかなかったということではないか。試合の流れを壊し、なりふり構わず時間を潰すずるさ、巧さも含めてスーパーレックは超一流だった。
「判定3-0」には両者の個性が詰め込まれていた。起伏があり、攻防の妙があり、心技体が総動員されていた。そんな試合は「なぜここまでできるのか」という畏怖の念さえ抱かせた。スーパーレックを相手に自分を貫いた武尊は、やはりとてつもない選手だった。敗れたとはいえまったく株を下げていない。一方、そんな武尊に勝ってしまうスーパーレックにも感服する。
「これ以上の体を、僕は作れません…」
武尊の技術的課題を指摘することも可能だろうが、そこに意味はない。「技術無視」に見える闘いの中にこそ武尊の“理”、思考や哲学が込められているのだ。武尊はよく「気持ちでは誰にも負けない」と言う。それは自らを鼓舞する言葉というだけではなくファイターとしての根幹だ。
「相手を根負けさせるようなメンタル勝負は、僕の一番の強み。負けず嫌いってことなんでしょうけど、試合での痛さ、苦しさは誰よりも我慢できるんです。痛みとか苦しみが限界にくるとダウン、KOになる。僕にはその限界がないのかなって。倒れても立ち上がるし骨が折れても殴るし。人間の限界を超えられる自信があるんです。だからケガするんですけど(苦笑)。死んでも負けたくないんですよ」
戦前のインタビューで言っていたことが、本当にそのまま出た試合だった。明らかに「人間の限界を超えた」闘いだった。けれども試合後の武尊は「限界」を口にしている。リング上でマイクを向けられると、嗚咽とともに思いを吐き出した。
「勝って世界一を証明して、みんなにパワーを与えたかったんですけど。今の体でできる限界のところまでやりました。絶対に勝って武尊を信じてよかったと思ってもらいたくて、死ぬ気で頑張ってきたんですけど。いま地震とかいろいろなことがあって、みなさん辛い思い、苦しい思いをしている人がたくさんいると思います。そういう人たちに、命がけで頑張ればいいことがあるよって伝えたかったです」
そしてこう続けた。
「僕ができるのはここまでです。これ以上の体を、僕は作れません……。僕を信じてついてきてくれたみなさん、ありがとうございました」