今大会に出場したMMAファイターの青木真也は、ロッタンが相手なら「打ち合いというガチャ」が回るのだが、スーパーレック戦ではそれがないだろうと分析していた。相性からして一か八かのバクチをさせてもらえないということだ。

　持ち味を発揮できず、蹴り潰されて負ける。そういう最悪の展開も予想できた。だが武尊はこう言っている。

「相性に関係なく、自分のスタイルに巻き込む。それが僕の闘い方なので」

前に出てKOを狙うスタイルを今回も貫いた武尊　©ONE Championshiop

スーパーレック「ボディが効いて倒されるかと」

　1、2ラウンドはスーパーレックのペースだった。右ローの迫力がただごとではない。前蹴りで距離を調節し、距離が詰まったらヒザ。パンチも当たる。武尊が強引に前に出ようとすればするほど、攻撃をもらうことになる。

　ただそれでも攻めるのが武尊だ。3ラウンド、ボディ連打でスーパーレックが背中を丸める。一気呵成のラッシュはコーナーから始まり、スーパーレックが逃げても止まらない。武尊はスーパーレックを別のコーナーまで殴り続けた。

　蹴りの弾幕が突き破られたこの場面を、スーパーレックはこう振り返っている。

「ボディが効いて倒されるかと思いました。生き残るためにすべてを出し切りました」

　思い出したのは、筆者がインタビューした際の武尊の言葉だ。K-1とは違う5ラウンドの長丁場についてこう言っていた。

「スタイル的にはそっちのほうが向いてると思います。僕は身体能力で闘ってないんですよ。身体能力で僕より上の選手はたくさんいます。練習でも、そういう選手に最初はやられる。でも何回もやるうちに勝てるようになるんです。学習能力というか、相手が何をしてくるか見極める力が僕の持ち味だと思っていて。だから長いラウンドのほうがいいし、これまでも試合後半のほうが相手の攻撃をもらってないんです」

武尊のパンチが何度もヒット、試合は進むごとに白熱の度を増した　©ONE Championshiop

敗れたとはいえ、武尊はまったく株を下げていない

　3ラウンド、武尊はローをカット（ブロック）し、前蹴りをかわしてから前進するようになった。いきなり大振りはせず、攻撃の軸はジャブ。チャンスを生んだのは“丁寧さ”だったと言っていいだろう。打ち合いを得意とする武尊だが、ただ闇雲に殴り合うというわけではないのだ。

　5ラウンドには右ストレートで何度も王者のアゴが跳ね上がった。本人の言葉通り、武尊は後半に強かった。相性など関係なかった。世界トップ、ONE王者のスーパーレックが相手でもそうだったのだ。

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