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「僕ができるのはここまで」武尊が流した涙の“真意”とは? スーパーレックも「倒されるかと」名勝負を生んだ2人はいかに“超一流”だったか
posted2024/01/29 17:41
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
ONE Championship
1月28日、武尊はアジア最大級の格闘技イベントONE Championshipの日本大会(有明アリーナ)に出場した。メインイベントでスーパーレック・キアトモー9が持つフライ級キックボクシング王座に挑戦し、3分5ラウンド闘って判定3-0で敗れた。
事実だけを書くとそうなる。
武尊は序盤からムエタイのトップ選手であるスーパーレックの蹴りに苦戦。ローキックとヒザ蹴りを何度も食らうとパンチも被弾する。3ラウンドにはボディショットを軸としたラッシュ、最終5ラウンドは右ストレートをヒットさせたがジャッジは王者を支持した。
試合内容を要約するとそうなる。
しかし事実の羅列とか内容要約だとかは、この試合を見た“実感”とはまた違う。成分表を見ただけでは食べ物の味は分からないのだ。
ロッタン欠場には大きなショックを受けたが…
『THE MATCH 2022』の那須川天心戦で敗れた武尊は昨年6月に復帰。今回は初のONE参戦となった。武尊がONEと契約した理由はロッタン・ジットムアンノンと闘うためだ。ロッタンはキックボクシング時代の那須川を最も苦しめた選手。そんな相手をKOして、那須川戦の悔しさに自分なりの落とし前をつけたかった。しかもロッタンは世界最高峰のハードパンチャー。最高の殴り合いができそうだと楽しみにしてもいた。
1.28有明大会で予定されていたのは、ロッタンとのノンタイトル戦だった。昨年6月の復帰戦を前にONEと契約。復帰戦でKO勝ちを収めると、すぐに「ロッタン戦モード」に入っていたという。
ところが、ロッタンが負傷欠場。代替カードとして決まったのが、スーパーレックとのタイトルマッチだった。MMAだけでなくキック、ムエタイ、グラップリングのタイトルも制定するONE。立ち技部門もタイをはじめ各国から強豪が集まってくるだけに、チャンピオン=世界トップの実力者と言っていい。
武尊はロッタン欠場に大きなショックを受けたが、スーパーレック戦のオファーを断りはしなかった。狙いを“キックボクシング世界一”に切り替えたのだ。
カード変更を危惧する声もあった
このカード変更を危惧する声もあった。パンチの打ち合いが期待されたロッタン戦とは違い、スーパーレックは蹴りを主武器とするタイプ。蹴りのほうが射程距離が長いから、武尊としてはまずパンチの距離まで近づかなくてはいけない。