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プロ野球PRESSBACK NUMBER
甲子園に響いた衝撃音「あ、藤浪のストレートが…」“絶好調の谷内亮太”を襲った悲劇「ヤクルト、日本ハム…仲間に愛された男の11年間」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byKYODO
posted2024/01/29 11:00
盛大な引退セレモニーでスポットライトを浴びる谷内亮太(2023年9月)
4月19日、甲子園での阪神戦。3回の打席で、阪神の先発・藤浪晋太郎のストレートが左手首に直撃した。恐ろしい衝撃音は三塁側のベンチにまで届いたという。蹲ったまま動けない背番号「46」に、真中満監督も血相を変えて駆け寄った。
「当たった瞬間に折れたな、と思いました。でも絶対に交代したくなかったので無理をしてランナーに出ました。その後、ベンチに戻って固定してもらってからショートの守備についたんですが、グラブにボールを受けた瞬間の痛みで、これは無理だな、と感じていました。セカンドの山田に『ボール回しは自分を外して』とこっそりお願いして、なんとか1イニング守りましたが、これ以上は迷惑をかけると思って自分から交代を申し出ました」
診断結果は左尺骨骨折。すぐに手術を受け、リハビリの末に8月には復帰を果たしたが、グラブのハンドリングや、バッティングの際の手首の返しなど感覚を取り戻すのには苦労したという。あの怪我さえなければ……千載一遇のチャンスを逃した悔しさは残っているのだろうか?
「やるせない気持ちはありましたよ。でももしかしたら、絶好調の時に離脱したからその後も『谷内はもっとやれるんじゃないか』というイメージがついたのかも。そのまま出続けていたらボロが出たかもしれないから、あの怪我のおかげで11年も現役でできたのかもしれません(笑)。あの時、藤浪投手も連絡をくれましたが、僕は試合中の怪我は気にしていません。むしろ藤浪投手はメジャーリーグで頑張ってほしいし、今も応援しています」
その2年後、さらに大きなターニングポイントがやってくる。振り返ればこの時の決断がその後の選手人生の道を大きく切り拓いたという分岐点。2018年12月11日、オフシーズンだった谷内の携帯電話が鳴った。
(後編へ続く)