濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
大晦日RIZINで“MMAデビュー”3選手の明暗はなぜ分かれた? 皇治が劇的勝利し、安保と芦澤が“完敗”した理由「ナメたらダメっす」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/01/05 11:02
MMAデビューとなった三浦孝太戦に勝利した皇治(左)
今回、敗れた2人について、RIZINの榊原信行CEOは「負けからのスタートで大成していけばいい」と評している。「これだけの大観衆の前で赤っ恥をかく経験」が発奮材料、プラスになればいいと。
「それでしっかり積み上げてきた皇治がちゃっかり勝つというね(笑)。時間をかけてMMAに向き合って、ドロドロになりながら積み上げてきましたから」
「34歳の俺が地道にやるのを見せたい」
安保と芦澤は、PRIDE→RIZINの歴史に沿った“ロマン”を求めて敗れたとも言える。逆に皇治はリアリズムで闘った。MMAで言えば三浦のほうが経験がある。しかし格闘技歴では断然、皇治だ。それこそ試合中の負傷など不測の事態が起きた時にどう対処するか。MMAの試合は初めてでも、修羅場をくぐった経験が違う。
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言ってしまえば、対戦相手を決める段階から皇治は勝ちに徹していたのだ。10月の名古屋大会、皇治は朝倉海とのMMAデビュー戦をオファーされている。9月大会のリング上、榊原が“生電話”で公開オファーする一幕もあったが、試合は決まらず。皇治には無謀な挑戦をする理由がなかった。
K-1、キックボクシングでは挑発と舌戦で話題を作り、格上の選手に挑んで知名度を高めた皇治。しかしMMAではそれをしない。入場時は柔術着に白帯を締めてリングに向かった。
「MMAをナメたらダメっすよね。大変な競技やと思う。立ち技の選手がポッと行って勝てる世界じゃない。今日だって実績のある選手に勝ったわけじゃないし。もっともっと精進しようかなと。(キックでは)天心とかたけぽんとか卜部(功也)とか強いヤツに挑んできたけど、その頃と一緒のことしててもね。34歳の俺が地道にやるのを見せたい」
この日、タイトルマッチを行なった朝倉海とフアン・アーチュレッタに対しては「彼らと実力でやれるようになったら面白い」。セコンドについた青木真也、柔術家・竹浦正起についても、負けたら顔に泥を塗ることになるという気持ちがあったと言う。
「闘いたいのはメイウェザー」
那須川天心に敗れた時、「よく最後まで立ち続けた」という称賛の声に反論していた皇治の姿を思い出す。倒れなかったことを褒められても仕方ない、倒れないことを競う競技ではないのだと。
敗戦も多い皇治がここまで生き残り、バリューを上げてきたのは、シビアなリアリズムあってのことなのだろう。練習をともにする理由について、青木はこう語っている。
「真面目で一生懸命だから」
しかしMMAに関する話題から外れると、皇治はRIZIN参戦経験のあるビッグネームの名前を出してこんなことを言い出す。
「闘いたいのは(フロイド・)メイウェザー 一択ですね。マジで勝てると思ってるしマジで嫌いなんで」
なお、RIZINとの契約があるマニー・パッキャオについては「サウスポーなんで無理」とのこと。真面目で一生懸命なリアリストは、あくまで正直なのだった。