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「美談として語るわけにはいかない」アーチュレッタ“まさかの減量失敗”で残る疑問の数々…それでも“圧巻KO”の朝倉海が見せた笑顔の理由
posted2024/01/01 17:03
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
「朝倉海の男気というのか。海に救われました。大会のMVPを1人選ぶとしたら朝倉海です」
恒例のRIZIN大晦日大会(RIZIN.45、さいたまスーパーアリーナ)を終え、CEOの榊原信行は言った。朝倉海とフアン・アーチュレッタのバンタム級タイトルマッチは、RIZINが“格闘技のシーズンピーク”と位置づける大晦日イベントの成否を左右する一戦だった。この試合は大会の最終盤、2大タイトル戦の1試合目として組まれていた。
そもそも試合が行われるまでの段階で、もつれにもつれた。王座決定トーナメントを勝ち上がった両者が対戦するはずだったのは7月。しかし海が負傷欠場し、アーチュレッタは代打の扇久保博正に勝ってベルトを巻く。
あらためて海を挑戦者とするタイトルマッチが大晦日に組まれたが、直前に大問題が発生した。アーチュレッタの減量失敗だ。規定体重61kgを2.8kgオーバー。普通なら試合が成立しない。
朝倉海「メンタル的にはきつかった」
だが海が歩み寄りを見せる。新たな試合条件は「試合1時間前に68kg」というもの。これをアーチュレッタがクリアしたことで試合が行われた。アーチュレッタはタイトル剥奪が確定し、レッドカードを出された状態からスタート。海が勝った場合のみチャンピオンに認定される。
万が一、アーチュレッタが勝っていたら。あるいは海が勝つにしても不完全燃焼の判定だったら。大会の盛り上がりにとてつもなく大きな影響があったはずだ。そしてそうなる可能性は、決してゼロではなかった。それが格闘技というものだ。
コーチには反対されたという海だが「僕の中では絶対やりたかった」という。これまで何度もRIZINのメインを張り、観客を沸かせ、運営サイドと信頼関係を築いてきた。いわばエースであり金看板。興行を“背負う”立場だった。
「メンタル的にはきつかったです。(アーチュレッタが68kgをクリアして)試合がやれるかどうかも分からなかったですし」
それでも海は勝ち切った。アーチュレッタはレスリング主体で相手にしつこく組み付き、体力を削っていくタイプ。「深海に引きずり込む」闘いが真骨頂だと自身でも語っている。
だから試合は我慢比べの要素も出てくると思われたのだが、そうはならなかった。タックルに対処すると得意の打撃勝負。アーチュレッタも打ち返し、海が被弾する場面もあった。「パンチがノーモーションで、思ったより伸びてきました」と海。
しかし打撃戦なら海の有利は動かない。2ラウンド、パンチで前進してきたアーチュレッタにヒザ蹴りが完璧なタイミングで突き刺さる。倒れたところに追撃のパウンドを連打して、2度目の戴冠が決まった。見事と言うほかない。